衣服とアートを巡る旅
2021年に始まったA-POC ABLEで私が衝撃を受けたのは、横尾忠則氏との協業プロジェクト「TADANORI YOKOO ISSEY MIYAKE」だ。A-POCの特徴は糸から生地をつくる過程で一枚の布の中に服のデザインを完成させるという、独自のプロセスだ。1本1本の糸に指示を与えて生地を編む・織るプログラミング技術により完成した横尾忠則ブルゾンは額装すればそのまま展示物にもなりうるクオリティーである。そのブルゾンを着て街を歩いていると様々な会話が生まれてくる。背中に纏っている絵画の現物に触れたことがある人に声かけられた時には、横尾作品への愛を語ると同時に、パリのお薦めギャラリーも教えてもらえた。飛行場での待機の際にも会話が弾む。レペゼン横尾忠則、な気持ちで少し誇らしい気持ちにもなる。
小池一子氏の三宅一生氏に関する著書『イッセイさんはどこからきたの?』の中には「服自体がアートのメディアになるということを証明して見せたのが三宅一生だ」というくだりがある。1990年代にプリーツ・プリーズをキャンバスに森村泰昌、荒木経惟、蔡國強らをゲストアーティストとともに作品を作り上げている。小池氏曰く「身につけるアート作品ほど心豊かな楽しみはない。しかも服の表面に載せられた装飾ではなく、ビジュアルアートとして屹立する一方で身体の動きに連動する作品となっている。」と記しているがまさにその通りである。
そして、今回の「So the Journey Continues」インスタレーション展でもアーティストとの協働プロジェクトが発表されていた。第5回目となる横尾忠則氏、現代アーティスト宮島達男氏との協業だ。
現在、東京国立博物館で開催中の『横尾忠則 寒山百得(かんざんひゃくとく)』展で展示されている全102点のうち10作品をモチーフに、熱で生地が収縮する独自技法スチームストレッチを用いて生み出された作品たちは四角いフラットな状態のまま額装すれば絵画に、身に纏えば楽しいドレスになる。衣服とは前身頃後身頃らを裁断して縫い合わせるものと思い込んでいるものにとってはイッセイ ミヤケの一枚の布がそのままドレスにもなる計算され尽くされたテキスタイルにため息が出る。折り紙を折る楽しさ、一枚の紙から立体的なオブジェを作り出す喜びを自身の体を使ってできるのがとても楽しい。
宮前義之氏曰くこのプロジェクトは横尾忠則氏から声がけされたという。80歳を過ぎてもなお精力的に大キャンバスに描き続ける横尾忠則氏は三宅一生氏の同志とも言える仲だろう。三宅一生氏初のパリコレから現在までショーのインビテーションは横尾忠則氏が手がけている。昨年惜しまれながら亡くなった三宅一生氏に対して、横尾忠則氏と宮前義之氏が届けるメッセージ的作品とも受け取ることができるプロジェクトだ。ISSEY MIYAKEの1990年春夏コレクションで発表された「リズム・プリーツ」を復刻しているところからも感じられる。そして「寒山拾得」、中国、唐時代の詩僧をテーマにしつつもトイレットペーパーがあらゆるところに登場していたり、アインシュタインのE=mc2が描かれていたり。横尾忠則作品ならではの宇宙的スケールの作品を見る楽しみも満載であり、鑑賞者に多くのメッセージを届けるプロジェクトである。