アノニマスアーティストの彼女が東京都内で開催されたジェネレーティブアートの祭典「ブライトモーメンツ(Bright Moments)」にあわせて来日していたので取材の機会をいただいた。同じくAIアーティストとして「ブライトモーメンツ」に出展し『Neural Fad』100点を1日で完売させた草野絵美氏にも同席していただき、日米の女性AIアーティスト達が向き合うAIアートの現在地、描く未来を共有してもらった。
新たなアート領域を開拓する勢いある彼女達の姿勢、言葉を堪能してもらいたい。
Taste is the new skill (テイストも新たなスキル)
まずそもそも、AIでアートを作るというのはどういうことなのか? クレア・シルバー氏は未来のアーティストの資質として「Taste is the new skill(テイストも新たなスキルである)」という言葉を生み出している。伝統的なアーティストに求められてきたデッサンなどのスキルと同様に、「あなたのテイスト」、つまり、自身の経験や趣味嗜好、センスもスキルになるという。これからは既存の芸術作品を作る上で必要とされていたスキルよりも、自分のセンスが大切になるのではないか、と語るのだ。また、一つのAIだけではなく複数のジェネレーティブAIを活用することも自分のセンスをAIに学ばせるポイントだと語る。
クレア・シルバー(以下クレア):それぞれのアーティストの中にある宇宙(ユニバース)を顕すのがAIアートです。写真が現実を映し出すカメラなら、AIはアーティストの想像力を映し出すカメラです。
草野絵美(以下エミ):私は音楽や写真などさまざまな分野での表現に挑戦していましたが技術を習得し極めることが苦手だったので、器用貧乏さに、劣等感を感じていました。ですがAIとともに作ることにより、初めて自分一人で作品が作れました。
私は学生時代から80年代のアイドル風コンセプトを扱った音楽やインスタレーションを作ってきていました。でも、完璧なものを作るのには時間がかかったり、大きな予算が必要だった。しかし、AIは私に力を与えてくれました。そして、AIアーティストの大先輩であるクレア・シルバーの「Taste is the new skill(テイストも新たなスキルである)」という言葉は私がAIアーティストとして活動する上では大きく背中を押してくれています。
クレア:「スキルを身につけること」は私たちが長い間目指してきたことでした。ただ生成系のAIが出てくることにより、スキルを身につけることよりも想像力やアイデアの方が重要になってきます。AIアートはクリエイティブの未来(the future of creation)です。
そして、AIはアーティストが好むものや光の見え方、筆使いの仕方を学びながら創造を手伝ってくれます。私達の脳が働くロジックに似ています。AIは効率的なツールであり、共同制作者のような存在です。時にAIが、まるで友達のようにも感じます。なぜならば私を理解し、望むものを提供してくれるからです。
AIと会話をしながら作品を作っています。時々、お気に入りの音楽や場所、思い出をChatGPTに与えて、プロンプトを書いてもらいます。実はそのようなパーソナルなテイストが感動的なイメージを映し出してくれるのです。