村田:当時は本当に怖いもの知らずで。別に嫌われてもいいやと、ガツガツ直接突撃していました。
中道:JIL SANDERはどうでした?
村田:素晴らしい環境でした。最初にジャケットのチームに配属されて、クリストファーというイギリス人デザイナーのもとで働きました。彼は完璧なものを求めて夜な夜なデザインしているような人でした。ある夜、彼のオフィスに行くと、たくさんスケッチ画が並んでいて、「どれがいいと思う?」と聞かれて。見ると全部同じデザインで。でもよくよく見ると、ラベルの高さが微妙に違っているんです。このわずかな高さの違いを、ひとりでずっと悩んでいたのか。JIL SANDERの完璧を求める姿勢はこういうところにあるのだなと、勉強になりました。
中道:そこから、今度は自分でブランドを立ち上げようとなるわけですよね。
村田:イタリアは修行が目的で、30歳になったら自分のブランドを始めたいと思っていました。JIL SANDERで3年ぐらいたった時にもう1ブランドぐらい経験したいと思ったのですが、なかなか決まらなくて。それなら自分のブランドを立ち上げて挑戦してみようと帰国しました。
中道:ブランドを立ち上げるのは簡単ではないですよね?
村田:お金がすごくかかりますからね。それも帰国した理由の1つでした。自分が海外の銀行から融資を受けるなんてできる気がしなくて。事業計画書や創業計画書をガチガチに作りこんで、日本でスモールな規模で始めました。
中道:それが2018年ごろ。今、自分の名を冠したブランド「HARUNOBUMURATA」を立ち上げて4年ぐらいたったわけですが、どうですか?
村田:いやあ、大変です。最近はランウェイでのショーも始めて、自分のクリエイションを発揮できる場が固まってきましたけど、やはりビジネスとして軌道に乗せることと、自分がやりたいクリエイションとのせめぎ合いとか、お金が必要なのに資金回収のサイクルが長いとか、難しい部分がありますね。
ただ、自分のブランドをいろいろな人に届けられることに対する満足度はすごくあります。自分のブランドを立ち上げて本当に良かった、すごく幸せだなと、毎日思いながらやっています。
中道:すばらしいですね。村田さんがいまハッピーなのは、自分で幸せをつかみ取るアクションをやり続けたからだと思います。自分の満足がいくアウトプットができる人というのは、自分がやりたいことやしたいことを思い続けるスタミナを持っている人です。思い続けるって、簡単なようで簡単ではなく、すごく大事なことだなと思います。