いまや、半導体や化学薬品は日常生活に不可欠どころか、「国家安全保障」にかかわる領域。だが、それらの製造過程では水が有害物質で汚染されている。そうした汚染水を浄化し、水に含まれている重要鉱物の抽出まで可能にする。そんなインド発のスタートアップを紹介しよう。
半導体集積回路の製造プロセスで使われる水は、化学薬品などの有害物質で汚染される。一般的なメーカーの場合、その量は1日3800万Lにも上り、工場にとって大きなコストとなるだけでなく、環境問題をも引き起こす。ボストンに本部を置くグラディアントは、そうした工業廃水を処理して再利用可能な状態にすることで急成長を遂げてきた。
同社は2023年5月、評価額10億ドルに達し(水関連テクノロジーのスタートアップで初)、ビリオネアであるジョン・アーノルドのケンタウルス・キャピタルなどから2億2500万ドルの資金を調達したと発表。総調達額は4億ドルを上回った。22年の売り上げで1億ドルに迫り、23年には2億ドル近くが見込まれている。
顧客企業には、半導体大手のTSMCやマイクロン、製薬大手のファイザー、グラクソ・スミスクライン(GSK)のほか、コカ・コーラ、採掘企業リオ・ティントなどが名を連ねる。「こうした企業の製造能力の確保は、国家安全保障上の問題ひいては存亡にかかわる問題となってきていますが、いずれの製造工程においても水が必要です」
グラディアントの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のアニュラグ・バジパイ(38)はそう言う。「我々は、汚染水から有害物質を極力取り除くだけでなく、場合によっては完全に除去して再利用することで環境への悪影響を軽減するのです」
バジパイと、共同創業者で最高業務責任者(COO)のプラカーシュ・ゴビンダン(39)は10年前、共にマサチューセッツ工科大学(MIT)の博士課程で浄水技術を研究する優秀な大学院生だった。子供時代をインドで過ごしたふたりは、水不足がいかに地域社会やそこに暮らす人々に深刻な影響を与えうるかを目の当たりにしてきた。ゴビンダンは、自然界における降雨循環にヒントを得た加湿・除湿サイクルを用いた脱塩プロセスを研究し、バジパイは、それを原油の脱塩に生かそうと考えていた。ふたりは、12年に博士課程を修了すると、そのコンセプトを基にビジネスを立ち上げた。
現在、グラディアントは約600の水処理施設をもち、異なる6つの浄水テクノロジーを提供している。取得した特許は数百件に及ぶ。
同社によると、場合によっては汚染水の98%を繰り返し利用することも可能だという。1日3800万Lもの水を使う半導体工場や、超純水を必要とする製薬工場にとって、天候に左右されず工場の稼働を続けることができ、製造コストと環境への悪影響の両方を軽減できることには大きな意味がある。
「水への依存を断ち切ることはできませんが、大幅に減らすことで長期的にみれば持続可能性を高めることが可能になります」(バジパイ)