汚染水の浄化にとどまらない。産業界を変える「廃水活用術」

グラディアントの共同創業者たち。アニュラグ・バジパイCEO(右)と、プラカーシュ・ゴビンダンCOO(左)。(Courtesy of Gradiant)

GSKでは、20年1月からシンガポールにある大規模なアモキシリン製造工場でグラディアントの廃水処理プログラムが進められてきた。GSKのアモキシリン薬「オーグメンチン」の主成分であるペニシリン系抗生物質の製造工程では、特に有害で管理の難しい汚染水が発生する。グラディアントは同社の工場廃水から1日約5tの水を抽出する。
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産業上重要な鉱物への政治的注目が高まるなか、グラディアントによる水処理プロセスはこれまでにないかたちでの利用も始まっている。グラディアントの出資者であると同時に顧客でもある油田サービス企業シュルンベルジェ(SLB)は近く米ネバダ州の工場にグラディアントの技術を導入する予定だ。電気自動車用電池に必要なリチウムを、岩石ではなく地下から汲み上げたブライン(塩水)から抽出しようというのだ。

「我々にとっては、あくまで脱塩または水処理プロセスです。溶液から水を取り出すと、その結果リチウム含有ブラインの濃度が高くなり、リチウムを抽出しやすくなります。我々が回収するのは水で、ブラインはその副産物です。でもこの場合、顧客の目的はブラインの確保なのです」(バジパイ)

グラディアントの工程では、費用効果が高く環境に優しい方法でブラインからリチウムを抽出することが可能になる、とバジパイは言う。SLBの新エネルギー部門社長を務めるギャビン・レニックは22年にフォーブス・インディアに対し、リチウムへの需要がかつてないペースで膨らむなか、同社が掲げるこれまで以上に持続可能なリチウム製造という目標達成では、グラディアントのテクノロジーが「鍵」になると述べている。
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新たな資金を確保したグラディアントは、現時点で最大の分野である半導体に加え、製薬、食品・飲料、重要鉱物など既存市場への進出を拡大する計画だとバジパイは言う。また、中東やヨーロッパで新市場への参入も計画中だ。


グラディアント◎2013年、米国マサチューセッツ州ボストンで設立。工業廃水を処理し、有害物質を取り出して再利用可能な状態にする。今年5月に水関連テクノロジーとしては初めて評価額10億ドルに達した。総調達額は4億ドル超。顧客は半導体事業ではTSMCやマイクロン、製薬事業ではファイザーなど。

アニュラグ・バジパイとプラカーシュ・ゴビンダン◎グラディアントの共同創業者。パジパイ(写真右)がCEO、ゴビンダン(同左)がCOOを務める。ともに子供時代をインドで過ごし、水不足の影響について身をもって知る。MITの博士課程で浄水技術を研究し、修了後にグラディアントを立ち上げた。脱塩プロセスの研究を生かし、サービスの幅を広げる。

文=エイミー・フェルドマン 翻訳=フォーブス ジャパン編集部 編集=森 裕子

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