経営・戦略

2023.10.30 08:30

「責任感」には限界がある 今、浪江町が若者を呼び込むワケ

中道:歴史の本の中にあったことが、自分たちの目の前にあるようなワクワク感がありますね。

高橋:閉塞感のある社会で、浪江町に希望を見出した人が集まってきています。地域の方々と一緒に、今まであったものを活かしながら新しいものを作っていこうみたいな、ナチュラルに利他的な若者たちです。先ほど農業も漁業も価値は人についてくると言いましたが、コミュニティや町づくりも人です。

浪江町の人口はもともと2万1000人でしたが、今は移住者を合わせて2000人弱です。その中でもともと居た方々は5%ほどですが、戻ってこられた方は、浪江町への強い思いがある方々です。今は、町のこと、コミュニティのことをポジティブに考えてここに住もうと決めた人たちだけで構成されています。そんな場所は日本の中でも珍しい。

そういう町なので、私みたいな者が突然移住しても歓迎してくれましたし、新しいアイデアを投げ込んでもサポートしてくれます。そんなオープンで気持ちのいいコミュニティやフロンティアスピリットに惹きつけられた若者がどんどん集まっている。アメリカ建国時に理想に燃えて海を渡ったピルグリムにシンクロするような感覚があってワクワクします。

中道:そういう成り立ちの場所は、今現在少なくとも日本にはないでしょうね。

高橋:もちろんこれは悲劇が生んだ結果ではあります。けれど、そこからポジティブを生み出そうというエネルギーが生まれているのはすごい希望だと思います。

中道:いろいろな自然災害を乗り越えてきた日本だから、悲劇から新しい形の町が立ち上がる強さがあるんでしょうね。若者が減って過疎化している地方というのは、たぶん若者にとって楽しくない場所なんでしょう。

高橋:それがコアだと思っています。責任感だけで過疎の地域を再生するのは難しい。どれだけいい文化を作るか、面白いことやワクワクすることを作るか。抑圧された中では幸福もワクワクもありませんから、そこには自由も不可欠です。

中道:前回出てきた自由と安全のバランスの話に繋がる気がします。アメリカは自由に重きを置き、日本は安全に重きを置く。

高橋:強さやしなやかさという日本のベースにアメリカの自由を取り入れることで、浪江町のフロンティアが起きているのだと思います。

中道:高齢化社会の問題など、日本は世界でも先頭を走っていますから、日本のケーススタディを世界が追いかけてくるはずです。そういう意味でも浪江町での取り組みは次のステップとして必ず生きると思います。

高橋:世界に教訓を与えられるようなモデルをみんなで作れたら最高です。ぜひ、浪江町にも遊びに来てください。

文=久野照美 編集=鈴木奈央

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