高橋:価値って、それを発見する人とそれを伝える人というのがすごく大事だと思うんです。最近よく言われる「共創」ですね。
生産者がよいものをつくっても、それを発見する人がいないと本来価値のあるものでも十分に伝わりません。価値を発見したうえで伝えていくのは、我々流通のスキルであり責任だと思っています。付加価値を生み出し、最終的に金銭で対価を得られる形にみんなで作り上げていく。それがいい形で生まれているのが、東北の食産業です。
中道:浪江町に移住されてからは、食を中心としながら、コミュニティや町全体のビルドアップに重きを置いておられるようですね。
高橋:最近、民主主義の課題の方が根深いのではないかと感じていて、コミュニティを自分たちの手でつくり、その小さなコミュニティに当事者意識を持とうと。自分たちの小さなコミュニティにさえ当時者意識が持てない者が、いきなり県とか国に当事者意識を持てるはずありませんから。
国や世界のことに対する当事者意識や主体性は、小さなコミュニティに関わっていく延長線上にあると思うんです。そういう小さな入口から始めることで、大きく変わっていくのではないかと。
もう1つ、間接民主主義の明らかな欠陥も見えてきています。今の人口ピラミッドではシニア世代が過半数なので、若者がどんなに投票率を上げたところで構造的に若者の意思や考えはほぼ社会に反映されません。これは危機的なことです。
若者がいいと思うことを実装できる草の根の民主主義的なものを別の形で作らない限り、若者が社会に対して諦めてしまうのではないか。それで今、震災でコミュニティが壊れてしまった場所に、新たに自分たちが手作りでコミュニティを作ろうと考えてNoMAラボを立ち上げ、さらに新プロジェクト「驫(ノーマ)の谷」を始めました。
浪江町は人が住めない帰還困難区域が80%もあります。人が住める20%の地域に私も住んでいるのですが、昨年3月に広大な帰還困難区域のほんの一部ですが、解除され、数人の方が住んでいます。
「驫の谷」は、そこに仲間を募り、資金を出し合って、どういうコミュニティをつくるかを話し合い、自分たちの手で建物や、なんならエネルギーも作っていきます。生業も作り、経済を回して、本当のコミュニティ再生を、相馬の殿様と一緒にやっていくプロジェクトです。
中道:「昔の大名が、ここに新しい土地があるから自分で町をつくる」みたいなプロジェクトというのが、正しい理解でしょうか。
高橋:外から来た人が勝手につくるのではなく、廃藩置県までそこを治めていた相馬藩の領主が戻って、新たな民主主義を一緒に作っていくというプロジェクトです。
中道:相馬家34代当主の相馬行胤(みちたね)さんが一緒に参加されている。
高橋:平将門直系の本物の殿様が共同代表です。