田尻:起業には興味がありましたが、何で挑戦するのかが見つかっていなくて。それを見つけるために会社員時代も長期の休みには必ず海外に行っていました。
会社員2年目の時に、着物で靴をつくるというアイデアが出てきたので、会社員をしながら商品開発やブランドを立ち上げる準備を始めました。1年間準備をしてようやく商品ができ、まだ売り先も運営戦略も決まっていませんでしたが、とにかくこれで1回起業してみようと思って会社を辞めて「ルリエ エイトワン」を立ち上げました。
中道:なぜ、着物から靴だったのですか。
田尻:京都の骨董市で着物や帯を買っている外国人観光客に買ったものをどう使うのかインタビューしたところ、テーブルの飾りにするとか、部屋に飾るとか、友人へのお土産にするという答えが返ってきて。着物を着るために買うのではなく、クールだから買うということだったんです。それで海外の人が身につけられるアイテムにリメイクしたらいいのではないかと。着物や帯がどういうものにリメイクされているか調べたら靴はありませんでした。そこから靴をつくってくれる職人さんや工場を見つけていきました。
電話で問い合わせたら、50件断られ続けました。ようやく話を聞いてくれるところが見つかって試作品をつくってもらえましたが自分が描いていたものとは程遠いものでした。
アイデアはあっても形にするのはこんなに難しいのかと、心が折れかけました。それに作るとなると何百足からオーダー可能というところがほとんどで。こちらとしては資金もないので1足から作ってもらいたいわけです。技術的な部分と条件が合うところ見つけるのは大変でした。
中道:プロトタイプができて、ブランドを立ち上げてからはどうでしたか。
田尻:ECを作り、インスタグラムで発信していたんですけど、ほとんど見てもらえなくて。ひとりでただただ発信し続けるという悲惨な状態でした。それでも海外の人に届けたいと思っていたので、ブランドを立ち上げた翌月の2018年6月にはパリとミラノに行きました。ファッションといえばヨーロッパだとイメージしていたのですが、行ったことがないので説得力がないなと。どんな国でどんな町なのか知ってみようと思い靴を持って行きました。
現地では、町行く人たちに靴を履いてもらいスナップ写真を撮らせてもらおうと思っていました。ところが観光客にも現地の人にもすごく警戒されて。行ったことがないからヨーロッパの治安の悪さを知らなかったんです。「このアジア人の靴を履いたらどうなることか……」という目で見られていたんですね。
でもそのうち履いてくれる人や写真を撮らせてくれる人が出てきました。お礼に日本から持ってきた扇子をお渡しするととても喜んでくれました。