「リスキリングを自分ごとと捉え、取り組んでいる経営者は、従業員に丸投げをしません。従業員に背中を見せられているか、ここは大きな違いだと思いますね」(後藤氏)
3.大抜擢人材を発見できるか
また、「社長自らが学んでいると、リスキリングの難易度に加え、従業員の誰にどれくらい任せたらいいのか、人選や権限移譲のレベル感も分かるようになるため、有利です」と後藤氏。その具体例が、プラスチックのOEM製品を手がける石川樹脂工業だ。同社は数年で20台のロボットを導入し、200%近い生産性向上を実現した。3Dデジタル技術を活用し、割れない、リサイクル可能な樹脂製の新食器雑貨ブランド『ARAS(エイラス)』を開発。さらに、OEM製品の余剰在庫などをAmazonで販売し始め、EC事業を全社売り上げの10%を占めるまでに成長させた。
同社でリスキリングの陣頭指揮を取ったのが、大学卒業後、P&Gでの勤務を経て、2016年に家業を継ぐ形で同社に入社した石川勤専務だ。同社ではロボットの導入にあたり、社内にロボットに詳しい人材はいなかった。しかし、専務自らが学んだ後、社内から適任者を探し出し、リスキリングを実施。今では、もともと品質管理部で働いていた従業員がプログラミングを行い、ロボットを動かしているという。
他にも、Amazonでの販売については、仕事が速く、論理的思考が際立っていたことなどを理由に、金型を担当していた女性従業員を抜てきした。当初、女性従業員にデジタルマーケティングの知識はなかったが、石川専務自らがデジタルマーケティングについて学んだ後、つきっきりで指導。結果、女性従業員はめきめき成果をあげるようになったという。ARASは、Instagramのフォロワー数が13万人を超え、同社ではアメリカ市場への展開にも動き出している。
4.情報収集の行動範囲を変えられるか
「お尻に火がついている会社の経営者は、一生懸命リスキリングに取り組むんですよ。ところが、昔作ったビジネスモデルで中途半端に儲かっている会社は、リスキリングだけでなくデジタル化の必要性すらあまり感じていないことも多い。だけどそこに胡座をかいていると、『自分はこの会社にいて将来、大丈夫なんだろうか』と、若い優秀な従業員から辞めていってしまいます。そうした企業の経営者の方には改めて、今のビジネスモデルは本当に10年先も通用しますか、と伺いたいですね」(後藤氏)経営者が健全な危機意識を持つためには、情報収集の仕組みと行動範囲を広げることが必要だという。
「特に地方にある中小企業の経営者の方など、日々、同じメンバーと働き、同じローカルのテレビや新聞を見ていらっしゃると、その地域のことにしか関心を示されなくなります。そうなると、経営者として得られている情報量が圧倒的に足りず、情報の内容も偏ってきます。
近年、世界ではイノベーションを加速させるために、垣根を超えて組織や人をつなぎ、組織行動に影響を及ぼす『バウンダリースパナー(境界連結者)』の必要性が叫ばれています。まずは外の世界で何が起きているのかを、冷静に調べることが重要です」(後藤氏)