実際に、アメリカの大学では女性比率は50%に近づき、女性に特別なゲタをはかせる必要はなくなった。しかし、少数人種の高校生のSATの平均点はアジア系と白人と比較して、かなり低く、テストの成績重視の入試にすると、少数人種の入学者数は少ないものとなる。そこで、大学の「多様性」を保つためにも、少数人種の受験者にはゲタをはかせていたのは、周知の事実である。
歴史的にも、最高裁はアファーマティブ・アクションを支持してきた。いちばん重要な判決は、2003年の最高裁判決(Grutter v. Bollinger)で、少数人種が大学の入試で優遇されるアファーマティブ・アクションは、「平等保護」に反しないとしていた。
今回のハーバード大学とノースカロライナ大学の入試制度を違憲とした判決は、この03年の判決をはっきりと覆したものとなった(保守系判事が3票差の多数を占める現在の最高裁では、中絶の禁止など、これまでの前例を覆すことに躊躇しない)。
6月29日の最高裁の判決が出されたあと、ハーバード大学やコロンビア大学からは、今後も大学の多様性を確保する、という声明が出された。最高裁判決の多数意見のなかでも、人種を基準にしてはいけないが、個人がエッセーのなかで少数人種であることでどのようなチャレンジがあったかなどの個人の経験を書くことは違憲ではない、としているので、大学としても多様性を確保する手段はあることになる。
しかしながら、入試審査の評価方法やその結果については、大きな変化が起きる可能性がある。また、結果としてアジア系学生の比率が上がる可能性も高い。
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002~14年東京大学教授。近著に、『Manag i ng Cur rency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。