そこで改めて経営の意思決定について理解したことがある。それは、意思決定そのものの正しさ以上に、その意思決定を正しく遂行できるかが問われる、ということだ。
意思決定そのものは平凡でもいい。その意思決定に対して組織が一丸となり、対話を重ねながら磨き上げていくことができれば、おそらくその意思決定は結果論として正しいものになっていく。そういう身も蓋もないリアリズムがそこにあった。
だからこそ、意思決定そのものも大事だが、その意思決定にどう組織を巻き込んでいくのかが重要になる。意思決定後のプロセスの大半は、組織のメンバーが関わっていくことになるからだ。
どれだけ良い意思決定だったとしても、現場が「経営者が勝手に決めたこと」「なぜそうしたのかがわからない」という一種の被害者意識を持ってしまっていたとしたら、それはもはや失敗への道へと突き進んでいることになる。
しかし、「組織を巻き込む」と言っても、そんな簡単なことではない。
あなたは自分の会社の経営者のプレゼンを聞いて、その意思決定の本質を心底理解できた経験をしたことがあるだろうか?
もし理解できたとするならば、それはおそらく、そのプレゼンを聞く以前に、自分自身がその経営者と同じ問題意識をすでに持っていたからだ。問題意識を伝えるためには、言葉だけでは限界がある。だからこそ、組織を巻き込むということは簡単ではないのだ。
では、この組織の巻き込みを深く考察するために、パタゴニアが今日のパタゴニアブランドを確立するに至った歴史的な意思決定を振り返ってみよう。
パタゴニアは、イヴォン・シュイナードによって1973年に創業されたアウトドア用品の企業だ。2019年には国連で最高の環境賞「地球大賞」を受賞するなど、サステナビリティへの取り組みに対して先進的な企業としてリスペクトされる存在でもある。
パタゴニアは、創業当初から環境への配慮とビジネスの両立を考えながら商品開発などを進めてきたが、1980年代後半、大きなジレンマに直面することになる。