キャリア・教育

2023.09.09 08:00

パタゴニアの大転換を成功に導いた、創業者の意思決定とこの一手

パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナード(Photo by Ben Gabbe/Getty Images for Tribeca X)

百聞は一見に如かず。

シュイナードはこのような方向性と効率性の矛盾に直面し、これはパワーポイントのプレゼンテーションでは解決し得ないと判断した。
advertisement

机上の議論だと、どうしても細部の理屈に視点がいってしまう。なぜ自分が全てを短期間でオーガニックコットンに変えるべきと考えたのか、その必要性を体感して腹落ちしてもらわなくてはならないと考えたのだ。

そのために、シュイナードは、コットン生産の現場に社員が「ロケに行く」という施策を打ち出した。毎年4〜5回行われたこの見学ツアーは社員に大きなインパクトを与えた。コットンの生産現場で嗅いだ悪臭、化学薬品による目のヒリヒリ感、吐き気、そして見ただけで有害さを感じる土の様子...... 五感を通じて体感したことの全てが、社員にコットンの限界を感じさせるものだった。

参加したある社員はこう語る。「それは啓示でした。その瞬間、私はすべてがつながっていることに気づいたのです」
advertisement

つまり、この社員は現地の状態を見ることによって、自社のやっているビジネスと生態系の連続性、そしてそれが回り回って自分達一人ひとりの生活へ影響を与えているということを感じることができたのだ。

コットン畑のツアーの体験者が増えるにつれて、パタゴニアの社内で変化が起こり始める。

今まで受け身だったオーガニックコットンへの切り替えにより積極的になり、オーガニックコットンの価値を正規取扱店、顧客に伝えていく独自の取り組みがはじまった。この施策の必要性を多くの社員が体感した瞬間、パタゴニアの動きは加速したのだ。

そして、結果的にシュイナードの約束通り、1996年の春夏シーズンの製品ラインでパタゴニアは100%オーガニックコットンへの移行を果たしたのだった。
Jermain P / Shutterstock.com

Jermain P / Shutterstock.com

表面的な理屈の理解か、理屈を超えた共感か、

戦略の意思決定においては、時にその方向性が正しければ正しいほど、冷徹な現実が露わになる瞬間が訪れる。その時に、組織がどれだけその意思決定の本質を理解しているのかが問われる。

当然ながら、表面的な理屈だけの理解にとどまっていれば、「やっぱり無理です」「さすがに難しいですね」という反応になるだろう。どれだけ正しい意思決定であっても、その状態のまま進めていけば、意思決定は「間違い」になってしまう。

問われるのは、組織メンバーが理屈を超えた「感情」で理解しているのか、ということだ。「やりたい!」「やらなきゃダメだ!」このような理屈を超えた感情レベルでの腹落ち感が問われるのだ。

もちろん組織をその状態にするのは、決して簡単なことではない。それはパタゴニアの事例を見ればわかるだろう。

経営者が持つ問題意識を共有するために、かなりの手間とコストがかかっている。しかし、それらの制約を乗り越え、組織の中に感情が生まれた時、正しい意思決定は「正解になっていく」。

あなたの組織はどうだろうか? その意思決定には、理屈を超えた感情が根付いているだろうか?

連載:「意思決定」のための学びデザイン


参考文献:
●『レスポンシブル・カンパニー』イヴォン・シュイナード/ダイヤモンド社
●パタゴニア社ホームページ「私たちはどのようにしてここにたどり着いたのか?:オーガニックコットン
●ハフィントンポスト2020年3月23日『世界でもっとも「責任ある企業」として知られるパタゴニア。地球の危機に対して、トップランナーはどんな景色を見ているのか?

文=荒木博行 編集=宇藤智子

タグ:

連載

Forbes Sports

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事