大事なのは「余白」 飛び地オフィスが生産性を向上する理由
柏木氏は、ここ数年で飛び地オフィスの利用が広がっている背景について、「コロナ禍で移住者が増えたりして、地方がもつアセットへの注目度が高まったこと。そして人的資本経営の観点から、社員のウェルビーイングや生産性を高める必要性を感じる企業が増えたことが考えられます」と説明。さらに、飛び地オフィスの利用が生産性向上につながる理由を、次のように述べた。「社員同士が同じ場所に集まり、共通の体験をすることによって、互いの理解が進みます。すると、チームに心理的安全性が生まれ、業務に関するコミュニケーションも取りやすくなります。また、大自然の中など、非日常の環境に身を置くことも大事。それによって気持ちが切り替わり、五感を解放できるんです。するとストレスが減り、頭と心に『余白』が生まれる。余白ができると、何かを発想するための創造力や集中力が高まり、生産性が向上します」(柏木氏)
柏木氏は、多くの企業が同施設でのオフサイトで「ディスカッション」「シェア」「コラボレーション」「アチーブメント(達成)」、4つのステップを踏んでいると説明する。
「まず、飛び地オフィスでは日常の業務から遮断されるので、より長期的なことや定性的なことも話せるようになり、『ディスカッション』が捗ります。そして、心理的安全性が高まるので、自己開示や発言がしやすくなり、『シェア』が進みます。さらに、戦略立案や焚き火、登山など、共通の体験ができるコンテンツで参加者が『コラボレーション』し、共通のゴールを『アチーブメント』(達成)することによって、絆が強まります。
実は、飛び地オフィスという非日常の中で踏むそれらのステップは、日常業務で皆さんが普段、踏んでいるステップと同じ。飛び地オフィスでは、それらを集中的にゾーンに入り、体感できることが醍醐味です」(柏木氏)
日本人は真面目 オフサイトで「ハレ」と「遊び」を
Island and office が飛び地オフィスの事業を始めたきっかけは、地方創生の聖地といわれる徳島県神山町で初となるサテライトオフィスの設計を、同社代表で建築家の須磨 一清氏が担当したことだった。「須磨は、神山町でいくつかサテライトオフィスや宿の設計に携わっていて、2023年4月に開校した神山高専の設計にも携わっています。それを見ていて思ったのは、神山町はこの10年ですごく変わったということです。企業が増え、移住者が増え、新たな産業や文化、芸術も生まれて。もともと豊かな自然と食があり、お遍路巡りの街でもあるので、寛容な雰囲気がある地域だったんですが、さらに幸福感が漂う町になりました。地方のアセットを活用して、日本で他にもそういう場所を増やしたいと思ったんです」(柏木氏)
しかし、飛び地オフィスでのオフサイトへの理解については、日本と欧米の企業で大きな隔たりがある。かつてシリコンバレーの監査法人で働いていた経験がある柏木氏は、そう指摘する。
「欧米の企業では、オフサイトでサバイバルゲームをしたり、ラフティングをしたりと、議論以外のアクティビティに投資する文化があります。日本にある外資系企業も、オフサイトへの投資金額では日本企業を上回る傾向があります。例えばあるグローバルの戦略系コンサルティングファームでは、数百人単位で社員を京都の世界遺産に集めてイベントを実施したり、マネージャー研修でオーケストラを指揮したりと、普段の業務とは異なるコンテンツを取り入れています。だけど、『なぜこの予算は必要なのか』という会話は必要ありません」(柏木氏)