メトロバーブ 閉鎖された企業施設が人気のオフィスへ
リモートワークの浸透で、テナント集めに苦労するオフィスビルが目立つなか、アメリカに入居率が9割を上回る人気の施設がある。ニュージャージー州郊外にある旧ベル研究所を再開発した、「ベル・ワークス・ニュージャージー」だ。近年、アメリカでは閉鎖された企業の施設を再利用し、オフィスや住居、レストランなどを備えた複合施設「メトロバーブ」(Metro:大都市とSuburb:郊外を組み合わせた造語)へと生まれ変わらせる動きがある。他にもシカゴ郊外では旧AT&Tビルが再開発され、「ベル・ワークス・シカゴランド」が誕生。「職住一体型」の施設は、はたして日本でも受け入れられるだろうか。共感、納得感━━ エンゲージメントが上がった
「当社の飛び地オフィスをマネージャー合宿や開発合宿で利用されたSansan社では、参加された社員の方のエンゲージメントが高まったというデータがあります」そう語るのは、Island and office 代表取締役の柏木 彩氏。同社では2021年5月から、八丈島で法人向けに宿泊機能付き会員制オフサイトオフィス「I&O 八丈島」を運営している。同施設は、8〜10名ほどのチーム単位で利用でき、年間利用権は30日660万円(税抜)から。「WORK, IN THE ZONE」というコンセプトの下、利用者は離島の大自然に包まれながら、整ったオフィス環境でオフサイトやアクティビティに集中して取り組むことができる。
「建物をガラス張りにしているので、施設内の至るところで大自然のど真ん中にいる感覚を味わっていただけます。さらに焚き火や料理、登山、沢登りなど、さまざまなアクティビティを通じて、チームでコミュニケーションが生まれやすい設計を行っています」(柏木氏)
通常、オフサイトの準備には、宿にレストラン、レンタカー、アクティビティの予約など、多くの手間と時間がかかるが、同施設では一括でそれらを請け負っている。
前述のSansanは、ミドルマネジメント層の連携強化と半期の営業戦略策定を目的として、同施設で営業マネージャー合宿を実施した。さて、その結果どうなったか――。エンゲージメントを表す指数である「価値観・行動指針への共感」(+2.3pt)や「自己成長への支援」(+1.6pt)、「会社の方針や事業戦略への納得感」(+1.7pt)、「部署間での協力」(+1.7pt)が上昇したという。理由としては、普段と異なる拠点に勤務していることなどから、直接顔を合わせることが少ない社員達が同じ空間に集い、議論や対話を重ねることで、一体感を醸成できたことが考えられる。
他にも、ベンチャーキャピタルから保険会社まで、幅広い業界の企業が同施設を利用。大手通信会社と保険会社の2社は、新規事業創出のために同施設を活用した。
「両社のご担当は普段、オンラインでやり取りをされていて、当施設でのオフサイトが、Yシャツ以外のカジュアルな服装で、初めて直接会ってお話される場になりました。最初は緊張を隠せなかったようですが、集中的に議論ができたこと、全員で山登りや焚き火を囲んだりしたことで距離感が縮まり、東京に戻ってからの協業が以前よりスムーズになったそうです」(柏木氏)
また、セキュリティコンサルティング事業を手がけるスタートアップ、Cloudbaseは、チームビルディングのために社員と業務委託のメンバーで同施設に宿泊。オフサイトの場で、代表と社員がビジョンや想いを伝えたことで、ずっと正社員として採用したいと考えていた業務委託のデザイナーが、入社を決めてくれたという。