おそらく30歳以上で、日常的に練習をしている実質的な競技人口では、ブラジリアン柔術の方が多いのではないだろうか。そうでなければ、首都圏開催のマスター世代向け大会に1900人もの人が集まることはない。
柔道のような五輪での露出、あるいは選手育成システムや警察や実業団など選手の受け皿はないものの、純粋に趣味としてのスポーツ競技と捉えると見えてくる景色は異なる。
第17回全日本マスター柔術選手権は今年2月に横浜武道館で開催された
結果を急がなければ、誰もが少しづつ前に進んでいける
話をマスクとザッカーバーグの戦いに戻そう。ブラジリアン柔術(あるいは道着を着用しないグラップリング)の試合は彼らの年齢や立場を考えれば、最適なルールになるだろう。マスクとザッカーバーグは体重が、それぞれ107キロと66キロと差が大きいが、一方でザッカーバーグはひとまわり程度若い。
打撃による攻撃、頭部のマットへの叩きつけ、頸部の圧迫、膝を捻る行為などが禁止されているブラジリアン柔術ならば2人の対戦も不可能ではないだろう。
いや、だからこそ岡田・玉木両氏もブラジリアン柔術の世界大会に出場することを「楽しめる」のだ。筆者自身、このスポーツを53歳から始めたが、競技スポーツ未経験でもすぐに試合に馴染むことができた。年齢や体格、身体能力の違いを練習による技の研鑽で乗り越えられるからだ。
結果を急がなければ、誰もが少しづつ前に進んでいける。加えて格闘技に乱暴なイメージを持つ読者もいるだろうが、寝技格闘技は「粗暴な人は強くなれない」という特徴がある。練習時間と習熟度が比例するため、粗暴な人は自然と練習相手が減ってしまうためだ。現役企業経営者や人気俳優が趣味として取り組めるのも、そうした要素があるからだろう。
東京・大塚と巣鴨に道場を構えるPATO Studio代表の西林浩平氏は「先日、全日本ノーギ選手権のアカデミー表彰(団体表彰)で1位になりましたが、その原動力はマスター世代でした。運動経験のない社会人が少しづつ上達し、強くなってくれたおかげです。一方で柔道やレスリングの経験者が選手を引退後に習ってくれたり、現役、引退後を問わず多くのMMA選手も趣味として入会してくれる例も増えています」と、格闘技未経験者と経験者のいずれもが、長く取り組める趣味にし始めているという。
「一方で打撃や投げにともなう事故が少ない武道という側面から、キッズ向け需要も堅調です。アスリート向け格闘技出身者の受け皿としての認知が広がり、キッズ向けなど若年層の裾野が広がれば、日本でも生涯スポーツとしての柔術が広がってくれるのではと期待しています」(西林氏)