さらにマスター7という、61歳を超えるカテゴリでも多くの試合が組まれるのだから、まったくこの競技を知らない人は驚くに違いない。
2023年世界大会はラスベガスコンベンションセンターWest Hallで開催
大人の趣味、習いごととしての潜在力
しかし、これほど米国で競技人口が伸びているにも関わらず、日本ではよく似た道着を使って行う柔道との違いを認識している人は少ない。筆者自身、一般的な米国人と日本人の間にあるブラジリアン柔術に対する温度差の大きさに驚くことがある。筆者は海外都市を仕事で訪れる際、現地の柔術ジムを可能な限り訪問している。例えばニューヨークのMarcelo Garcia Academyでは、クラスに60人以上の会員が同時に参加していて驚かされた。聞けば会員登録者数は1000人を超えているという。
統計データはないが、米国で登録されているブラジリアン柔術ジムは3000団体以上、対する日本ブラジリアン柔術連盟(JBJJF)登録ジムは327団体。競技人口は日本が推定2〜3万人程度に対し、米国では少なくとも20万人を超えるとされている。
これだけ違えば、「日本のブラジリアン柔術はマイナー」と関係者自身が自虐的に話すのも頷けるが、アスリートスポーツとして捉えるとマイナーなブラジリアン柔術だが、大人の趣味、習いごととしての潜在力は大きい。
日本最大のマスター世代(30歳以上)大会は、併載大会へのエントリーも含めると1910人に達する。米国での世界大会はその5〜6倍の規模であるが、登録ジムや全年齢での推定競技人口が9倍前後違うことを考えればその差は縮まる。
その理由として考えられるのが柔道の存在だ。日本ブラジリアン柔術連盟・会長の中井祐樹氏は「かつて、日本には多くの武術がありました。柔道も柔術も源流には共通性があります。柔道はスポーツとして確立し五輪に採用されたことで、アスリート競技としてルールが洗練され、現在に至っています。ブラジリアン柔術は体格や体型、性別、あるいは年齢などを超え、技の習熟度、洗練度を競うため別のルール進化を果たしてきました」と話す。
中井氏は七帝柔道から総合格闘家となり、日本の総合格闘技の歴史を刻んだ伝説的な人物だ。試合で片目を失明した後、ブラジリアン柔術を学んで黒帯を持ち帰り、日本における普及の最初期を支えた。
失明後に黒帯を取得できたのも、純粋に寝技の技術を競うルール整備が進んだブラジリアン柔術ならではのことだ。「ルール進化の違いが(柔道に比べ)多くのマスター世代の参加者を呼び込んでいるのだと思います」(中井会長)