ビッグマッチはサッカー日本代表戦のような盛り上がり
加えて、総合格闘技の(MMA)浸透、認知の高まりから、スポーツとしての格闘技に幅も出てきている。米国市場ではショービジネスとしての「格闘技」が近年急成長し、社会的に認知を得ている。打撃、投げ、寝技などさまざまな要素を組み合わせたMMAの世界では「UFC」という組織が最も大きく人気も高い。
UFCは多様な格闘技をバックボーンに持つ選手同士が同じ条件で戦うための「ユニファイドルール」を確立したことで勢力を伸ばし、現在、その企業価値は121億ドル、純利益は3億8900万ドル(約568億円、2023年米国証券取引委員会に提出された数字)にまで成長している。
興行の注目度を示すPPV(ペイパービュー:有料視聴番組)の販売件数は、ボクシング興行の歴代ランキングと比べても上位に食い込むほどだ。
2018年に行われたUFC229のハビブ・ヌルマゴメドフ対コナー・マクレガー戦は240万件のPPVを売り上げ、会場となったラスベガス・Tモバイルパークでの有料入場者数も2万人以上となり入場料収入は1720万ドル(約25億円)に達した。
東京・亀戸の道場「Now or Never」代表・杉本孝氏は、会社員時代に寝技格闘技に惹きつけられ、海外のジムも訪れながら経験を積んで昨年独立。ジム経営を始めた。
「UFCのビッグマッチは、日本でのW杯サッカー日本代表戦のような盛り上がりでした。特に寝技格闘技はハードルが低く身近。50ドルも払えば世界的スター選手から指導を受けたり、いっしょに練習してアドバイスが受けられる。旅行でFCバルセロナの練習に参加する感覚です」(杉本氏)
UFCの定めたユニファイドルールは、「総合」格闘技であり、ブラジリアン柔術の根幹である「寝技」以外にも、打撃やレスリング的な技術も必要になる。一方で「ブラジリアン柔術」は、あらゆるMMA選手にとって知っておかねばならない「必修科目」になっている。
打撃では決していっしょに練習することもない著名なプロ選手と組んで練習する機会があることは、ブラジリアン柔術のあまり知られていない密かな楽しみの1つであり、MMAというジャンルを通じてブラジリアン柔術の認知を高めることにもつながっている。
ブラジリアン柔術に関する有効な統計データはほとんどないが、例えば「柔術」と「柔道」を比較する場合、Google Trendsでネット検索の量を米国内に限定して比較してみると、2014年に柔術が柔道を逆転し、現在は5〜5.5倍にまで広がっていることがわかる。
この数字に説得力があるのは、岡田・玉木両氏も出場している「マスター世代の大会」規模が示す数字だ。マスター世代でとは30歳以上の競技者のことで、以降は5歳ごとにカテゴリを分割している。この大会に集まるのはおよそ1万人だ。