「技を磨き、昨日の自分よりも成熟した柔術家になること」が、ブラジリアン柔術を行うモチベーションだからだ。そして日常的に対人練習を行なっているため、自分の習熟度を試す場として試合に出場する人の割合も多い。
打撃系格闘技での試合出場は、大きな怪我のリスクもあり、社会人になってから、特に家庭を持ってからは、なかなか踏み出せないものだ。一方、ブラジリアン柔術は「試合出場が目標」として設定しやすいようにルール整備されている。
「著名な俳優が格闘技トーナメントに出場なんてリスクが高すぎる」と思った方は、少し見方を変えると、よりこの競技への認識が高まるだろう。「著名俳優でもその気になればエントリーできるぐらいにハードルが低い」という表現が実態に近い。
このことは、世界有数の大富豪の(実際にどうなるかどうかはわからない)対決にも、少なからず影響を与えている。
ザッカーバーグは1人前の柔術家として認められる「青帯」
一般的な格闘技イメージとの違いは他にもある。ボクシングやキックボクシングといった打撃格闘技は、反応速度や瞬発力への依存度が高い。ブラジリアン柔術も身体能力と無関係ではないが、それ以上に経験からくる技の洗練度が、強さにおける大きなパラメータになっている。
どんなにすばらしい肉体を持っていても、歳を重ねればいずれは衰えていく。しかし技の洗練度は競技を続けるほどに高まり、洗練度が高くなる。技の洗練度が強さを決める大きな因子であるため、シニア世代になっても技を磨き、身体能力の衰えを超えて上達できる「生涯スポーツ」だ。
トーナメントは同程度の習熟度、年齢、体重、性別で組まれる。これは「磨いた技を競い合う」ために条件をそろえ、試合への参加ハードルを下げ、試合に参加した選手自身が自分の位置を確認しやすくするための工夫だ。
ザッカーバーグがシリコンバレーの大会に参加できたのも、彼自身の努力もあるが格闘技未経験者だけでトーナメントが組まれる白帯部門があったからだ。すでに彼は白帯部門で優勝し、1人前の柔術家として認められる「青帯」を授与されている。マスクが対決をオファーしたのは、そうしたザッカーバーグのバックグラウンドを知った上での挑発だったのだろう。
海外俳優にも多くの愛好者がおり、キアヌ・リーブス、トム・ハーディなどは、一般会員に混じって熱心に練習していることで知られている。
ちなみに、学生時代のスポーツとして五輪競技でもあるレスリングに取り組む選手が多い「レスリング大国」でもある。スポーツとしての格闘技に対して理解が広いことも、マスク対ザッカーバーグ対戦への違和感が少ない理由かもしれない。