しかし、ウクライナ側の要求はこれで終わりではない。ウクライナは米ロッキード・マーティンが手がけるF-16を3カ国から計50〜60機確保したもようだが、ウクライナ空軍の老朽化した旧ソ連製戦闘機125機前後をすべて置き換えるにはまだ足りない。これらの国に先立ってスウェーデンを訪れたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、スウェーデン製サーブJAS39グリペン戦闘機の一部の譲渡を要請したのはそのためだ。
スウェーデン空軍はグリペンの旧モデルJAS-39CとJAS-39Dを計100機ほど保有していて、これらをより新しいJAS-39E少なくとも60機で置き換えようとしている。
ウクライナがグリペンを欲しがるのは当然といえば当然だ。というのも、グリペンはなんならF-16以上に、ウクライナが現在戦っているような戦争にあつらえ向きとも言えるからだ。なかでも重要なのは、グリペンは道路からの作戦行動に適しているところかもしれない。
現代の軍用機の大きな弱点は、駐機する空軍基地にある。3000m級の滑走路を擁し、敷地面積が20平方kmにおよぶような空軍基地は隠しようがなく、高度な技術力を有する隣国同士の大規模な戦争になった場合、互いに相手の航空基地を目標にすることが予想されるからだ。
その簡単な対処策が、いざというときには航空基地を放棄して、高速道路などの道路を臨時の滑走路として代用する、というものだ。実のところ、ロシア空軍の前身であるソ連空軍の軍用機は、こうした分散退避に対応できるよう特別な設計が施されていた。
ミコヤンMiG-29戦闘機が着陸するときの様子をじっくり見てほしい。補強された着陸装置でタッチダウンすると、エアインテーク(空気取り入れ口)の扉が閉じ、エアインテークの上部にある補助インテークが開く。汚い道路を離着陸する際に、石などの異物(FOD)を吸い込んでエンジンが壊れるのを防ぐ仕組みだ。
同様のFOD排除機構はMiG-29だけでなく、スホーイSu-24爆撃機、スホーイSu-25攻撃機、スホーイSu-27迎撃機など、ウクライナ空軍に配備されているほかの旧ソ連製航空機も標準で装備している。これらの航空機は耐久性が高く、必要とする滑走路も短い(MiG-29の場合わずか300mほど)。だからこそ、ウクライナでいまだに生き残っているというわけだ。