サイエンス

2023.08.22 12:00

韓国研究所の「室温超伝導体」発表にネットが熱狂した理由

「LK-99」のイメージ写真(Rokas Tenys / Shutterstock.com)

7月下旬、アンドリュー・マカリップはTwitchでライブ配信を始めた。それ自体は珍しいことではない。だがこの日の配信は、視聴者数が1万6000人を超え、Twitchの人気ランキングでトップ5に急浮上。フォロワー数が当時600人未満だったマカリップにとって、これは快挙だった。

しかも、配信内容はゲーム実況ではなかった。マカリップが配信していたのは、複数の鉱物の粉末を混ぜて高温に熱し、それさらに粉砕、加熱するという作業。目的は「LK-99」と呼ばれる物質の製造方法の再現だった。

「ライブ配信は冗談で始めたものだった」。新興宇宙企業バルダ・スペース・インダストリーズのエンジニアであるマカリップは、フォーブスにこう語った。「炉が稼働する様子を見ること以上に退屈なことなどあるだろうか?」

突然の熱狂に見舞われたのは、Twitchだけではない。LK-99を再現しようと、材料科学者やアマチュア研究者たちが躍起になった。ソーシャルメディア上では、スポティファイの創設者ダニエル・エクや、投資家の「SPACキング」ことチャマス・パリハピティヤをはじめとするテクノロジー界の重鎮が、科学・テック愛好家たちとともにこの研究成果をたたえた。

LK-99は、韓国の量子エネルギー研究センターの研究チームが発見。チームは査読前の論文で、LK-99を「初の常温常圧超伝導体」と説明し、これが磁力で浮く様子を捉えた動画も公開した。これが本当に常温超伝導体だと確認されれば、電子機器部品に革命をもたらし、これまで不可能だった製品の製造が可能になる大発見だ。

発見内容については今後、他の科学者たちによる再現・検証・査読が進められるため、科学界での最終的な評決が下されるのは数カ月後になる。だが、これまで行われた再現実験では、この分野の研究者のほとんどが、LK-99は超伝導体ではないとの結論に至った。しかし、今回ネット上で一時的に起きた熱狂ぶりは、さまざまな分野の進歩につながる技術の発見が実際に期待できるものであることを浮き彫りにした。

電気を通しやすい材料は「電気伝導体」と呼ばれ、通常は銅や金、銀などの金属でできている。だがこうした物質には電気抵抗があるため、電気を通すと熱が発生する。コンピュータに冷却用のファンがついているのはそのためだ。

これに対して「超伝導体」は、電気抵抗がほぼゼロのため熱を発生させない。これを使ってつくられた電磁石は、コンパクトかつ強力だ。超伝導体が1970年代に発明されたことで、MRI(磁気共鳴画像法)による検査が可能となった。ただし、電気抵抗をゼロにするには、超電導体を絶対零度に近い極低温に保つ必要があり、幅広い応用には不向きだ。

これに対し、通常の大気圧で動作する常温超伝導体は、発電と送電の効率を飛躍的に高めることができる。発見に大きな期待がかかっているのは、それが理由だ。
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翻訳・編集=遠藤宗生

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