核融合はエネルギー技術の「飛躍的進歩」か? 「過大評価」か?

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LK-99は超伝導体でないことが世界中の科学者によって明らかにされたが、一方で、核融合の飛躍的進歩は注目を集めた。核融合は何十年にもわたって「10年先」と言われてきたが、今回は何が違うのだろう?

このような報道や論調は、核融合の進歩が時として難解な技術的用語に埋もれてしまうことを意味する。核融合における最新の進歩は、排出量ゼロのエネルギーを無限に使用できる時代の到来を告げるものではないかもしれない。それでも「人類が知る限り最も環境に優しい」とも言われるエネルギー技術が、具体的な一歩を踏み出したことは確かだ。

2022年12月、核融合の飛躍的進歩が起きた。米国カリフォルニア州のローレンス・リバモア国立研究所の実験で、核融合を起こすために使われたエネルギーよりも、核融合によって生み出されたエネルギーの方が多い「ブレイクイーブン」を、ついに実現したのだ。この革新は2023年7月、同チームによって再現されており、しかも核融合によって生み出されたエネルギーは過去最高を記録した。

ただし、この飛躍的進歩は限定的なものだ。損益分岐点を突破したのは、核融合に使われたレーザーのみで、システム全体のエネルギー収支はプラスではなかった。さらに、実験が行われた国立点火施設(NIF)は、サッカースタジアムほどの広さがあるが、そこで生み出された電力は、冷蔵庫が1日で消費する電力より少なかったのだ。

つまり、核融合はまだ10年以上先の話だ。恒星でしか見られない核融合反応を、人類が再現するのはやはり難しい。

核融合反応は、既知の基礎物理学と矛盾するものではない。科学者が直面しているのは、概念ではなく、実現に関する問題だ。技術的課題は山積みだが、いずれ解決されるだろう。経済的に有効で安全な核融合への道を開くためには、政府の研究所や民間企業が近いうちに解決できる、さまざまな課題をクリアしていくことに焦点を移すべきだ。

最も深刻な課題はコスト効率だ。核融合発電が拡大するかどうかは、核融合炉の建設コストと、核融合を実現するために必要な技術のコストにかかっている。

何年もかけて改善されてきた結果、再生可能エネルギーはしばしば、最も安価なエネルギーとなっており、技術が成熟すれば、広く採用されることが確実だ。必要なのは、経済的に実用性のあるエネルギー貯蔵と、電力供給の安定化だけだ(それでも、ジョー・バイデン米政権の気候問題担当大統領特使ジョン・ケリーのような環境技術推進派でさえ、再生可能技術はまだ十分ではないと述べている)。

核融合に関しては、供給と物流の問題も妨げになっている。核融合の最も重要な構成要素のほぼすべてが、あまりにも不足しているのだ。核融合に不可欠な水素の同位体であるトリチウム(三重水素)の供給量は、全世界で20kgに満たない。これは、核融合炉によって、米国の平均的な発電所の1日の発電量を実現する際に必要となるトリチウムの3分の1にすぎない。
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翻訳=ガリレオ

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