重水素も水素の同位体であり、供給不足の問題はないが、海水から抽出することになるため、輸送やコストの制約がある。幸い、この問題は海水淡水化へのデュアルユース投資によって解決可能で、重水素の需要は着実に伸びると市場はすでに楽観視している。
中国のエネルギー企業Guangzhou Jietong Gasや、米国のMatheson(マチソン)、Praxair(プラクスエア)といった企業は、海水淡水化と重水素のデュアルユース研究を進めている。核融合の研究が、海水淡水化のコスト削減につながり、世界的な水不足の解消に役立つ可能性もある。
核融合の環境コストも、過小評価されるべきではない。核融合は化石燃料よりはるかに環境に優しいが、環境汚染の万能薬ではない(なお、実用的な原子核融合と、常温核融合という仮説的な概念を混同している人がいる。常温核融合は、室温で核融合反応が起こり、環境汚染がないとされている現象だ)。
トリチウムは、環境中に放出されると、約120年にわたって危険な状態が続く。米エネルギー情報局(EIA)は、米国では現在のところ、高レベル放射性廃棄物の最終処分施設を運用しておらず、原子力プロジェクトを著しく複雑にしていると指摘している。米エネルギー省の数十年にわたる近視眼的な政策が生み出した状況だ。
通常の原子炉の使用済み核燃料であれ、将来の核融合関連の廃棄物であれ、決断力を持って先手を打たなければ、原子力発電の廃棄物処理をどこで行うかという問題は、人類のグリーンエネルギーの未来にとって致命的なものになり得る。
皮肉なことに、核融合そのものの可能性にも問題がある。核融合は理論上、非常に大きなエネルギーを、非常に速く放出するため、科学者たちはまだ、反応をどのように小さくするかを考えているところだ。
送電網への大規模な投資がなければ、核融合は悲劇的に手の届かない存在であり続けるかもしれない。過剰な電気を適切に対応できない送電網に、あまりに大きなエネルギーをあまりに速く押し付けることになるからだ。
人類が、気候変動を引き起こすことなく無限のエネルギーを享受するというビジョンは、すぐに現実になることはないが、決して空想ではない。技術が実現したとき、体制が整っているようできることはすべて行うべきだ。
「老人たちが、自分はその木陰に座ることのない木を植えるとき、社会は大きく成長する」ということわざを思い出そう。核融合の準備を今すべきだという理由がわかるはずだ。
(forbes.com 原文)