NASAの研究チームは、地球上にある宇宙通信網「ディープ・スペース・ネットワーク」を用いて、火星とともに回転するインサイト着陸機を4年間にわたり追跡調査。地球からインサイトに向けて無線信号を発信し、探査機に反射されて戻る信号にドップラー効果によって生じる変化を測定した。ドップラー効果は、救急車などが近くを通り過ぎる際、サイレンの音の高さが変化する現象と同じだ。
探査ミッションの存続期間を通じて、研究チームは測定結果を用いた電波科学的分析を実行し、火星が現在どのくらいの速さで自転しているかを突き止めた。
今回得られた自転運動測定値は、NASAの1970年代の火星着陸機バイキングによって得られた測定値の約5倍の精度がある。インサイトが2022年12月に電力切れになり運用を終了するまでに、研究チームは火星の自転が毎年数cmのペースで加速していることを明らかにした。
研究の詳細は、科学誌ネイチャーで最近発表された論文で報告されている。
NASAによると、インサイトに搭載の観測装置「RISE」により、火星の自転が1年に4ミリ秒角ほど加速していることが分かった。これは、火星の1日の長さが1年に1000分の1秒足らず短くなっていることに相当するという。
自転加速の原因は?
NASAによると、主な可能性は次の3つだ。・ 火星内部の物質と深部の長期的な運動
・ 火星上で大気のトルク(回転力)によって生じる大気循環の長期的な傾向
・ 極冠での氷の長期的な蓄積か、氷の下敷きになっている陸塊が隆起する氷河期後の反動(惑星の陸塊が変動すると、自転加速の原因となる可能性がある。これは、腕を伸ばして回転しているアイススケート選手が、腕を体に引き寄せると回転速度が増すのに似ていると、NASAは説明している)