マネー

2023.08.16 08:30

経営者、起業家、識者に聞く。人生100年時代の「人とお金の新しい関係」

お金の価値は相対的。若いうちは自分の成長に投資せよ

三橋克仁|ファミトラ 代表取締役CEO

私は幼いころから電気や水道が頻繁に止まるような環境で育った。父は20代のころからフランスのパリで15年ほど画家として活動していたが、帰国後はやめてしまい仕事をしない日もあったから、物心ついたときには、お金がないことによる不自由から解放されたい、お金の制限がない世界で生きてみたいと思うようになっていた。自分はいつか人より抜きん出て成功し、お金持ちになるんだという人生のモチベーションを、このころすでに強固にもっていたように思う。

やりたいことはたくさんあるのに、お金がないからできない。そんな状況のなかで、どうやったら自分の頭でお金を稼げるかをずっと考えていた。周りのみんなが何を欲しがっているのかを観察し、それを自分が満たせるような“ビジネス”を考案したのだ。例えば、小学生のころならメダルゲームの両替機よりも高いレートで交換するとか、希少性の高いゲームを買って速攻でクリアし、需要が高いうちに買い値より高く売るとか、そんなかわいいものだったが、起業家に必要な需給バランスは自然と身についたようだ。

東大に入ってからは、株式投資サークルに没頭した。数百万円単位のお金を動かせるようになると、お金の価値とは相対的なものなのだと気がついた。同じ1万円でも、年代によってその価値は大きく異なる。そう考えると、自分がさらに成長しているであろう10年後には、いまよりもっとラクに1万円を生み出せるようになっているはずだ。それなら貯金なんかせず、借金をしてでも自分の成長や投資に使うべきだと考えるようになり、奨学金を可能な限り借り入れて、勉強に株式、そして起業のタネ銭にと使いまくった。最初の会社であるmanaboを創業した23歳の時点で、すでに2000万円くらいの借金があったと記憶している。

いま私は36歳だが、「ミハシ」という自分の名前にかけて、38歳の4月までに、38億4000万円あるいは384億円を稼ぎたいと考えている。そのために、4年前に新会社「ファミトラ」を立ち上げ取り組んでいるのが、AgeTech領域だ。manaboではEdTechを扱っていたが、いまは「お年寄り×IT」の市場拡大を見据えた家族信託事業に注力している。

家族信託とは、シニア世代が、子どもなどの信頼できる家族に資産管理を託すことができる制度のこと。認知症の患者は年々増えているが、認知症と診断されると法的な意思能力がないとみなされてしまう場合が多い。本人名義であるにもかかわらず預金が凍結されたり、不動産を売買できなくなったりする問題があるが、それを解消するためには複雑な手続きが必要であり、家族の負担も大きい。家族信託制度が一般的になれば、この問題解決に貢献できるだろう。

さらに、利用者が増えれば増えるほど、シニア世代が保有しているだけだった資産全体に大きな流動性が生まれ、現役世代に引き継がれた資産は社会で活用されるようになる。日本全体の不動産や現金アセットの流動性が高まることで、世界的に見て日本経済のプレゼンスが高まる可能性もあると確信している。


みはし・かつひと◎ファミトラ 代表取締役CEO。東京大学大学院工学系修士課程修了。2012年にマナボ(現manabo)を創業し、18年に売却。19年にAgeTech事業を展開するBOSSA Technology Inc.(現・ファミトラ)を創業した。
次ページ > 僕が「お金に執着しない」わけ

文=フォーブス ジャパン編集部、堤美佳子、三ツ井香菜

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事