キャリア・教育

2023.07.27 16:30

ローカルから生まれ始めている 「新たな豊かさ」を定義してみよう

Forbes JAPAN編集部

(左から)中島 真・井上貴至・平林和樹

ChatGPTが世界を席巻するなか、日本の地域に「豊かさ」を見いだす人たちがいる。

経営者、起業家、政治家が語る、「課題の先進性」に満ちた地域がもつ魅力と可能性とは。


中島真(以下、中島):私は「インターネットを使って社会をよくしよう」というまなざしで仕事をしていますが、一方で、地域に対する思いも強くなっています。ChatGPTやメタバースの出現で「インターネットで世界を完結しうる」といった論調もあるなか、リアルの骨格たる地域には、つくらなくてはいけないものがあると感じるからです。

平林和樹(以下、平林):私もキャリアのスタートは大手インターネット企業でした。当初は地域にあまり関心がありませんでしたが、スマホが登場し、デジタルで物事が完結し始めるなかで、ツールやサービスを使う人たちのことがとても気になり始めたのです。人の行動や習慣は文化に根づき、文化は地域につながっている。地域特有の食や産業を残しつつ、いまの時代に合った文化をつくることができたら人は豊かに生きられるのではないかと思ったのが、起業した理由のひとつです。

井上貴至(以下、井上):私は大阪出身で、企業の流出や路上生活者の実態などを見て育ったので、中高生のころから地域に対する問題意識は少なからずありました。いまは山形市の副市長をしていますが、山形に来てすごいと思うのは、地域の大人たちが高校生の探究活動などを積極的に応援するのです。例えば、「やまがたAI部」は高校横断の部活として取り組んでいるのですが、地域の企業が人やお金を出し合ってサポートしています。また、山形では高校生の起業も珍しくありません。自分たちが住む地域を軸に、若いうちから挑戦する流れが出てきています。最近は、高校生も普通にクラウドファンディングでプロジェクトを始めますよね。

中島:そうなのです。実は、高校生のクラウドファンディングは一見とても応援されそうですが、以前は資金が集まらないことのほうが多かったのです。「学校はどうしているんだ」など、いろんな横やりが入ることも少なくなかった。大人が純粋な気持ちで応援する雰囲気は、今のほうが数年前より明らかにあると実感しています。

平林:私は2015年に起業したのですが、当時はよく「なんで地域のことに取り組みたいの?」と聞かれました。最近は「ローカルで挑戦」という文脈でとらえられるようになり、地域はますます可能性にあふれていると思います。

井上:アメリカでは「シリコンバレー離れ」が進んでいますよね。日本でも東京一極集中ではなく、ほかの場所で挑戦しようという流れを感じます。

中島:小さなコミュニティの場合、自分たちが行政と一緒になってルールメイキングまで手がけることができることもある。こういった地域は貴重な存在だと思います。

平林:日々さまざまな地域の人と話をしますが、現場が思う地域の課題と、国という視点から見たときの課題認識には違いがあると感じます。この点について、井上さんはどうお考えですか。

井上:自助、共助、公助という考え方がありますが、国の議論は自助あるいは公助が中心です。共助は最もつくるのが難しいですが、実はいちばん大切だと私は思っています。

例えば、公共交通機関にしても、高齢者だけが利用者では経済的に成り立ちません。どうやったら現役世代も使いやすい仕組みにするかを、ハードとソフトの両面から考える必要があります。子育てについても、単にお金を配るのではなく、親子の居場所をつくったり、デジタルで相談に乗ったりする仕組みを整えたりできるかどうかが大切です。こうした共助の部分をどう膨らませるかについては、自治体ごとに取り組む必要があります。
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文=瀬戸久美子 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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