キャリア・教育

2023.07.27 16:30

ローカルから生まれ始めている 「新たな豊かさ」を定義してみよう

異なる人たちとの対話の先に「希望」がある

中島:東海地区を対象にしたベンチャーキャピタル(VC)を手がけている知人が、ローカルには「課題の先進性」があると言っていました。地域に根差して活動している起業家の課題解決手法は解像度が高いので、日本のほかの地域、あるいは他国にも同様の技術や仕組みを展開する見通しを立てやすいというのです。

井上:地域の課題が見えやすいぶん、可能性を広げやすくもあるのですよね。一方で、人と人との距離が近いので、「かくあるべき」という固定観念にとらわれている人の声が届きやすく、可視化されやすいことは地域の難しさのひとつです。

平林:人材採用面の難しさもあります。東京の強みはプレイヤーが多いことです。地域で活動する人たちの話を聞くと、やっぱり採用に困っている。

井上:都会と地域の違いは、100人の野球部なのか、8人の野球部なのかという違いに似ていると思います。100人の野球部はレギュラー争いが大変だけど、8人の野球部は人を見つけてくるところから始めて、さらに1人がピッチャーも外野もやる感じです。どうやって人を集めて、どう仲間をつくるか。そのときに大切になるのが、いろんな考え方をベースに対話する技術だと思います。

平林:とても共感します。盛り上がっている地域には必ず、ハブとなるファシリテーターがいます。上の世代と下の世代、地域内外の人たちをうまくファシリテートしているのです。

中島:一方、地域ごとに生かしきれていないリソースもあると感じます。地元の人たちが盛り上がったり、アジェンダやテーマをもち込んだりできる場のアレンジメントが重要なのではないでしょうか。ないものを外部からもってくるより、いまあるものを生かしたほうが魅力的になると思います。

平林:資金という面では、クラウドファンディングも含めて調達手段が一昔前よりはるかに増えたので、何かを始めるときにお金で困るケースは正直、あまりなくなってきたように思います。

井上:とはいえ、スタートアップ特有の「死の谷」はありますよね。数千万円や億単位の調達をしようとすると、途端に調達先がなくなってしまう。

中島:いまの資本主義市場の枠組みのなかでは、金銭的な利益にひもづかないテーマへの資金はほぼ集まらないのが実態だと思います。VCは8年から10年内のリターンを見込めないと、基本的にお金を出さないのですよね。

これは私の主観ですが、地域を軸にして事業を立ち上げる場合、その多くは時間をかけてやるべき物事であり、「拙速かつ短絡的にブレイクスルーして成功」という話にはきっとならない。つまり、時間軸と経済の規模感、リスクマネーがかみ合っていない。補足しうるお金の流通は未整備だし、こと日本においては原資が少ない。フィランソロピーが足りないことも一因ですが、クラウドファンディングを含めてまだまだだな、と思います。

井上:いまの時代は変化が激しく、物事が「腐る」のが早いですが、続けるほどに価値が出てくることも大事にしたほうがいいと思います。そこには老舗のブランドや関係性で成り立つコミュニティビジネス、スポーツビジネスなども含まれますが、続けるほどにファンが増えて、価値も高まるという側面をどう追求するかも大事です。

実は、山形県は京都府に次いで老舗企業が多いのです。それらの企業の創業家の方と話していると、100年後に自分の会社が続いていくかどうかを大切な軸にしています。そして、単に伝統を守るのではなく、クリエイティブで新しいことを取り入れる姿勢もおもちです。インスタ映えするお菓子をつくったりするのもそうですが、強みを大切に守りながらも、時代の変化に応じてどう挑戦し続けるのかを、皆さん模索しています。
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文=瀬戸久美子 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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