怖れからお金を使うな 分離からつながりへ
由佐美加子|ザ・メンタルモデル開発者お金の呪縛は人の無自覚な思い込みからできている。「お金は使いすぎたら無くなってしまう」「お金がないと生きていけない」「稼げないと自分には価値がない」といったものだ。この背景には、お金の豊かさを、所有する「ストック」の量に置いている暗黙の前提がある。
転職のたびに給料を上げていくキャリアを積む人も多い外資系企業にいて、自分自身も高い年収を得ていたこともあるが、一定の額を超えると充足度は相関しなくなる。どんなに高い年収を得ても、今度はそれを失うことが恐ろしくなる。
さらに、お金には自分ではなかなか気づけない「呪い」のようなものもある。私の場合は、人のためには使えるのに、自分にお金を使うことに罪悪感をもってしまうことだった。その原因を探ってみると、母や祖母のお金に対する価値観があった。彼女たちは、家計のやりくりのためにいつも家族を優先し自分に使うお金は最小限だった。無自覚のうちにその価値観が染み付いていたのだ。それに気づいてから、やっと少しずつ自由にお金を使っていいと自分を許せるようになった。
本来、お金とは循環するエネルギー体であり、つながりのなかで分かち合うための手段であったはずだ。ところが、共同体としてのつながりが希薄化したいまの社会では、人とのつながりよりも所有するお金が安心の拠り所となっている。しかし、どんなにお金があったとしても他の命とのつながりを感じられなければ、人は本当の安心感や幸せは決して得られない。
「自分の力で生きていかなくてはいけない」という全体からの“分離”を前提とする意識は、人間関係を貧しくさせ、怖れを増幅し、自分だけがよければいいというエゴの肥大化を招いてきた。「全てとつながっている循環のなかにこそ豊かさがある」というフローの感覚を取り戻すことができれば、過度な競争や格差に変化が起こせる可能性がある。その鍵となるのが一人ひとりのお金の「使い方」だ。自分の価値観に則った喜びを感じられるもの、全体の命に叶っていると賛同できるものにエネルギーを流すことである。
自分のところに流れ込んだお金というエネルギーを外側のどんなものに循環させたいのか、というひとつひとつの選択に自覚的であることが、この世界に投じられるそれぞれの一票になる。
ゆさ・みかこ◎野村総合研究所、リクルートで勤務後、グローバル企業の人事部マネジャーを経て独立。合同会社CCC代表、LLTパートナー。著書に『お金の不安と恐れから自由になる!人生が100%変わるパラダイムシフト』など。