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2023.08.16 08:30

経営者、起業家、識者に聞く。人生100年時代の「人とお金の新しい関係」

テクノロジーが後方支援する「金融のあるべき姿」

田中 徹|MILIZE CEO・代表取締役社長

1990年代後半、勤務していた旧富士銀行のニューヨーク支店に配属になり、運用やリスク管理業務などを行っていた。金融業界的にも厳しい時期であり、自由で想像的な仕事を求めて、次の職場を決めずに辞職。理想的な職場も見つからず、やむをえず起業したが、それまでのキャリアで学んだプログラミングや金融工学の知識を使い、運用やリスク管理のソフトウェアをつくるのは非常に楽しく、創造的な仕事だった。

2007年に1社目の企業を数十億円で売却したのち引退も考えたが、ビジネスを通して社会の役に立ちたいという気持ちがあった。また、自身は本業とは別に、株や為替、先物、オプションなどリスクの高い資産運用を長年行ってきており、いろいろ痛い目にも合ったが、起業の資金などお金に余裕ができたのには、サラリーマンとしての給料ではなく、投資を通じてのものだった。

会社員が起業しようと思うと、原資がないと難しい。私のような高リスク高リターンの運用は一般的におすすめできないが、資産運用という手段を多くの人に知ってほしい。より多くの若い人たちがお金を投資や運用にまわすことで、小さなお金を大きくするチャンスに恵まれると、新しいチャレンジをすることができる。その結果、よい企業も増え、世の中はよくなっていくのではないかと思う。

金融機関などでは、顧客第一の観点で顧客に有利なアドバイスをすることと、収益をあげることが時に相反することがある。今後AIの活用により効率化、高度化を図ることで、金融機関の利益と顧客の利益を同時に求めることができるのではと思っている。MILIZEは金融機関の効率化、高付加価値化をAIで支援し、開発したフィンテックサービスを通じて、顧客が豊かになることに貢献したい。

今年3月にはChatGPTによるサービスも始めた。「MiLi TALK(β版)」では、次世代金融アドバイザーMiLiが、LINEでユーザーのお金の質問に回答する。独立したFPではなく、金融機関がコンサルティングして同時に商品を売るのは日本独特。我々はChat GPTに「絶対に金融商品を売りつけてはならない」という条件を課している。お金のことについて金融機関に聞きに行く必要がなく、ある意味独立した立場で、人間の経験値のようなものを伝えてくれるエンジンができたことは、個人にとって素晴らしい利点だ。


たなか・とおる◎東京大学経済学部、米ロチェスター大学 経営学修士。旧富士銀行にてデリバティブトレーディング、リスク管理ヘッジファンド運用などを担当したのち、金融ソフトウェア会社を起業。2009年にAFG(現在のMILIZE)を創業。

文=フォーブス ジャパン編集部、堤美佳子、三ツ井香菜

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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