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2023.08.03 16:30

核融合だけではない、日本発の次世代エネルギー技術「QHe」とは

2015年にクリーンプラネットが東北大学理学部電子光理学研究センターと「凝縮系核反応共同研究部門」を立ち上げると、岩村氏は東北大学の特任教授に就任。産学連携体制のもと、次世代エネルギーの本格的な研究・実用化への第一歩が始まった。
 
開発の肝は、凝縮系核反応から生まれるエネルギー。岩村氏はこれを「量子水素エネルギー(QHe)」と名付けた。

589日もの間、920~930℃を維持

QHeとは、ナノサイズの構造を持つニッケルベースの複合金属材料に、少量の水素を吸蔵させて加熱すると、投入した以上の過剰熱を生み出せる技術である。 
 
Chief Engineer Officerの遠藤美登氏は次のように説明する。
 
「実験では、数cm角の積層チップ(発熱素子)に少量の水素を吸蔵させて900℃で加熱しました。すると589日もの間920~930℃を維持できました。QHeは従来の水素燃焼による化学反応と比較すると、1万倍という膨大なエネルギーを生み出すことができるうえに、放射線や放射性廃棄物は発生せず、太陽光や風力発電のように気候に左右されることもありません」
遠藤美登氏

QHeの原理は、核反応でなければ説明がつかないものと考えられているが、その全貌はいまだ明らかでない。QHeの発生プロセスでは同時にさまざまな反応が起き、いくつもの生成物がつくられる。この現象を整合的に説明する方程式は不明だ。実用化までの年数も、東北大学との共同研究が始まった当時は定かでなかった。
 
先端科学で未知数だが、クリーンプラネットは三菱地所と三浦工業から出資を受け、東北大学の実験施設を神奈川県川崎市(KAWASAKIベース)に拠点として拡張。2021年9月には三浦工業との共同開発に乗り出し、2022年6月には三菱商事と世界市場への展開を目的にタッグを組んでいる。
 
遠藤氏らを中心に、技術のブラッシュアップや数々の実証実験などが実施され、それらが同社の説得力を後押ししていることは言うまでもない。しかし、いくら高度な技術を持ち、優れた科学者が集うテック企業でも、資金調達に行き詰まることが多いのが現実である。
 
その課題をクリアできている理由を、グローバル戦略室長の林雅美氏は次のように説明する。
 
「テックスタートアップでは技術そのものが重要であることは当然ですが、一般のスタートアップ同様、“代表者の人としての力”があるからだと思います。代表の吉野は、GABAなどで、周囲が無理だと諦めることを、優秀なメンバーとともに解決してきた経営者としての実績があります。
 
そんな吉野が語るビジョンに、パートナー企業のトップや投資家は『QHeは将来的にゲームチェンジャーになり得る』と納得するのでしょう」
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文=畠山和也 編集=露原直人

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