スタートアップ

2023.08.02 09:00

宇宙探査を安価で安全に 日本の新興企業GITAI、宇宙ロボ産業の革新目指す

遠藤宗生

GITAIの月面作業用ローバー(同社提供)

中ノ瀬翔(36)がロボット工学に情熱を抱くようになったきっかけは、10年前の母親の死だった。自分は医師ではないが、新技術があれば母は助かっていたのではという考えが頭を離れなかった。

「当時は、人間の能力を拡張するような新しいテクノロジーがあれば、母を救えたに違いないと考えていました」。その後、この悲劇から得たインスピレーションを基に、宇宙ロボットのスタートアップ「GITAI(ギタイ)」を立ち上げた。

同社は、これまでに大和証券グループのグロースファンドや三菱UFJキャピタル、グローバルブレインなどから累計60億円以上の資金を調達し、月面の土壌サンプリングなど、宇宙でのさまざまな作業に従事するロボットの開発を目指している。その取り組みの背後にあるのは、宇宙でロボットを使うことは人々の命と健康を守ることにつながるという中ノ瀬の信念だ。
GITAIの創業者で最高経営責任者(CEO)の中ノ瀬翔(GITAI)

GITAIの創業者で最高経営責任者(CEO)の中ノ瀬翔(同社提供)


米航空宇宙局(NASA)によると、宇宙旅行による放射線被ばくは、がんのリスクを高めるだけでなく、中枢神経に損傷を与え、認知機能や運動機能の低下を引き起こす可能性がある。ロボット技術の活用で、人命を危険にさらすことなく、より安価に宇宙探査を行うことが可能になると中ノ瀬は考えている。GITAIの目標は、宇宙での人件費を100分の1に削減すると同時に、人間の代わりにロボットを宇宙に送り込むことで安全上のリスクを緩和することだ。

同社は現在、2種類の製品を製造している。1つは、長さ2メートルのロボットアームで、中ノ瀬によるとシャクトリムシのように動き、電動ドリルやシャベル、ロボットハンドなどのツールを装備してさまざまな作業を行うことが可能だ。これにより、宇宙飛行士が宇宙船や宇宙ステーションで行うメンテナンスや修理などの宇宙船外作業を削減することが期待されている。

もう1つの製品は、ゴーカートほどの大きさの月面作業用ロボットローバーで、一度に数kmを走行できる。NASAが人類を再び月に送り込み、恒久基地を建設することを目指す中、このような製品は重要な役割を果たすことになる。

宇宙ロボット市場は50億ドル突破へ

月面を再現した環境で作業を行うGITAIのロボット(GITAI)

月面を再現した環境で作業を行うGITAIのロボット(同社提供)


宇宙ロボット開発を手掛ける企業は、GITAI だけではない。現状の市場で優勢なのは、国際宇宙ステーションのロボットアームを開発したカナダ企業の「MDA Space」や、ルクセンブルクを拠点とする「Redwire」などだ。宇宙ロボットの需要は伸びており、調査会社グランド・ビュー・リサーチは、2027年までに市場規模は50億ドルを超えると予測している。同社のレポートによると、需要が伸びている背景には、静止衛星を効率的に修理・サービス・メンテナンスする必要性が増していることが挙げられるという。

「コストパフォーマンスや生産性の向上、過酷な宇宙環境で作業を行う能力などへのニーズの高まりが、宇宙ロボット技術の需要を牽引している」とレポートは述べている。

現状はレガシー企業が業界を独占しているものの、米ローンスター・データ・ホールディングス(Lonestar Data Holdings Inc.)のアナリスト、クリストファー・ストットは、GITAIが技術力によって大手との競争に打ち勝つ可能性があると指摘。「この分野の主要メーカーはMDA SpaceとRedwireだが、GITAIは2社との競争に勝ち、ロケット打ち上げ市場におけるスペースXに匹敵する市場シェアを獲得する可能性がある」と述べている。
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編集=上田裕資

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