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2023.08.03

核融合だけではない、日本発の次世代エネルギー技術「QHe」とは

クリーンプラネットの実験室

京都フュージョニアリングの100億円調達や、ノーベル賞受賞者の中村修二氏らによるスタートアップ設立など、核融合に関するニュースを目にする機会が増えてきた。

そうしたなか、東北大学との産学連携体制によって「量子水素エネルギー(Quantum Hydrogen Energy、以下「QHe」)」という独自の発熱方法の開発と普及に取り組むのが2012年創業のクリーンプラネットだ。
 
QHeは、水素を使用して、都市ガスの1万倍以上という莫大なエネルギー密度をもたらす次世代のクリーンエネルギー技術。実用化されれば、さまざまな工場の熱源としてや、将来的には各家庭の冷暖房や電気にも活用することができる。またCO2排出量もゼロかつ放射線や放射性廃棄物は一切発生せず、摂氏1億5000万度の高温核融合に比べ、QHeでは800度という低温度帯でエネルギーを発生させるため、安全管理が極めて容易になる。
 
同社はすでにプロトタイプの初号機を完成させつつあり、ボイラー大手の三浦工業とQHeを利用した産業用ボイラーの共同開発を進めている。
 
「安全、安定、安価」の次世代エネルギーの開発・実用化に向け、すでに欧米を中心に巨額の資金が投入され、技術競争が激化している。そうしたなか、日本でいち早くQHeの実用化に乗り出したのがクリーンプラネットだ。同社が取り組むQHeとはどのようなものか。

教育産業からエネルギー事業へ

クリーンプラネットの代表取締役社長の吉野英樹氏は、東京大学法学部在学中に英会話スクールGABAを創業した。高品質のマンツーマンに特化して事業を軌道に乗せた後、ロンドンビジネススクールで修士号を取得し、その後、世界をまたにかける環境投資家として活動していた。
 
そんなとき、東日本大地震が起こる。福島第一原発の核反応の暴走を見て、「持続的な未来のためには全く新しいクリーンエネルギーが必要だ」と痛感した吉野氏。海外からすぐに帰国し、自身のネットワークを駆使して関係省庁から先端物理学の国際学会まで、情報収集に奔走した。
 
韓国で開催されたICCF(国際常温核融合学会)に出席した際に、次世代のエネルギーとして強く惹かれたのが「常温核融合」だった。この力をもとに、科学先進国の⽇本から世界にエネルギー⾰命を起こしたい。その思いで、2012年9月には、クリーンプラネットを設立する。
 
吉野氏の転機となったのが、当時三菱重工で凝縮系核反応を研究していた岩村康弘博士との出会いだった。2人は「New Energy, New Future(新エネルギーの発明で、人類の未来を切り拓こう)」というコンセプトで一致した。
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文=畠山和也 編集=露原直人

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