だが、「自分が中心だ」というのは正当な主張ではない。宇宙における地球の位置から言えるのは、今日、観測可能な天体の中で、地球に近いものが最も進化した年老いた天体であり、それより遠くにあるのは若い天体であることだけだ。目下のところ、近いところにある天体の膨張率は、遠い天体のそれよりも低い。最も近い天体が放つ光は赤方偏移しにくく、天体の変化は、遠いところにある天体よりも宇宙論的要素の影響を受けにくい。というのは、宇宙全体に存在する天体がいずれも光より速い信号を発することができないからだ。現在われわれが観測している各天体からの光は、今この瞬間、地球に到達している光ではあるが、発せられたのは間違いなく過去だ。宇宙をさかのぼれば、同時に時間をさかのぼることができる。したがって、
・天体の過去を見ることができる。
・今よりも若く、ビッグバンに近い時期の天体を観測できる。
・宇宙が今よりも高温高密度で、膨張する速度も速かった時期の天体を観測できる。
・光は、それが放たれてから宇宙を渡り、地球に届くまでのあいだに波長が伸びていたはずだ。
しかし、もし地球から見て全方向が可能なかぎり均一に見える場所がどこか把握できていれば、現在、われわれに見えているものがひとつある。ビッグバンが残した宇宙マイクロ波背景放射だ。
ビッグバンの残光は、赤い側が平均より3.36ミリケルビン高く、青い側が平均より3.36ミリケルビン低い。これは概して、一定の方向に進む光の速度の約0.1パーセントの速度の宇宙マイクロ波背景放射の静止座標に対する地球の総移動によるものとされている。DELABROUILLE, J. ET AL.ASTRON.ASTROPHYS. 553(2013)A96
宇宙のあらゆる場所で、正確に2.7255ケルビンの均一な放射線が見られる。その温度は、われわれがどの方向を見るかによって、数十マイクロケルビンからおそらく数百マイクロケルビンの差がある。しかし、相対するふたつの方向において、一方がもう一方よりも温度がわずかに高いことがわかっている。これをわれわれは宇宙マイクロ波背景放射の双極子としてとらえている。