伸張と収縮
天体は宇宙空間に存在して動いているという最初のシナリオは容易に理解できるだろうが、次のシナリオは少々、説明が必要だ。アインシュタインの一般相対性理論に照らすと、宇宙は粒子やほかの物質が移動する静止した“背景”ではなく、宇宙に存在する物質やエネルギーの影響を受けて膨張する、時間を有する布地の一部である。巨大な集団がある場所では布地は湾曲し、量子は直線ではなく、宇宙の屈曲に沿った軌道を移動する。たとえば日食のときに太陽のまわりで起きる光の屈曲は、重力に関して、ニュートンの万有引力の法則に異論を唱えたアインシュタインの予測が正しかったのを初めて示した事象だった。もうひとつ一般相対性理論が証明したのは、宇宙に物質やエネルギーが均一に満ちているとすれば、ぴたりと静止した、まったく変化のない時空は存在しえないという点だ。すべての要素がすぐに不安定になり、宇宙は膨張するか収縮する。時空が伸張すると、そこに存在する光も伸張する。
・宇宙という布地が収縮すると、波長も縮む
・宇宙という布地が膨張すると、波長も伸びる。
われわれの目に届く光の特性には、宇宙を渡るあいだに受けた膨張する宇宙の影響が刻まれている。
原理から言えば、収縮と膨張による影響はいずれも生じている。宇宙という布地が伸張すると、宇宙を渡る光は体系的に変化し、銀河や光を放つほかの天体もその伸張する宇宙を移動する。
第一原理から、われわれの宇宙がどうなるのかを知ることはできない。数学的には、ひとつの方程式には複数の解があり、それは一般相対性理論の方程式にもあてはまる。“物質”だらけに見える宇宙は、膨張していたか収縮していた可能性がある。宇宙論的な偏移を重ねあわせると、われわれが特異速度と呼ぶものや、宇宙に存在する物質が、あらゆる物質やエネルギーの根源の重力のような影響を受けて、どのように動くかを発見できそうだ。
天体に見られる変化は、どんなものであれ伸張や収縮の影響を受けた結果である。天体が放つ光がどう変化するかを測定しても、どの要素が宇宙論的で、どの要素が宇宙論的でないのかはわからない。だが、さまざまな距離に位置する数多くの天体を観測すれば、それらの平均的な傾向から、宇宙全体がどのように膨張しているかはわかる。
地球から観測できるのは、半径460億光年の範囲だろうが、さらにその外に観測できない宇宙が広がっているのは確かだ。これまでわれわれが宇宙を知る手がかりにしてきたのは、宇宙の形状ではなく、観測した光が放たれてから経過した時間である。それゆえ、どこか特定の位置を宇宙の中心だと決めることはできない。WIKIMEDIA COMMONS USERS FRÉDÉRIC MICHEL AND AZCOLVIN429, ANNOTATED BY E. SIEGEL