政治

2023.07.10 09:00

バイデノミクスは「アベノミクスを反面教師」にせよ

安井克至
同じことをやったのが米国のドナルド・トランプ前政権である。トランプもまた、景気を刺激するために何兆ドルもばらまき、米国経済のダイナミクスを変えるような持続的な取り組みはなおざりにした。

困ったことに、アベノミクスはアジアのほかの国にも伝染した。中国や韓国からマレーシア、タイ、インドまで、この地域には、大きな改革を掲げながら、実行がまったくともなっていないように見える指導者が掃いて捨てるほどいる。

日本の場合、安倍時代の「有言不実行」のツケがまたぞろ回ってきている。株式相場はぐんと上昇したが、家計は低空飛行が続く。4月の平均賃金はインフレ調整後で1年前に比べて3.0%減った。減少は13カ月連続である。

年初から10%進んでいる円安は消費者の購買力を損なうとともに、日本が外国からインフレをさらに「輸入」する可能性も高めている。そのため、日銀の植田和男総裁による金融政策のハンドリングはひどく複雑になっている。もし植田が23年におよぶ量的緩和の出口に向かわず、アクセルを踏み続ければ、円はさらに下落するだろう。一方でブレーキを踏めば、企業のトップたちはアベノミクスが約束していた「好循環」を起動させる賃上げに、ますます消極的になってしまうかもしれない。

チームバイデンにはぜひとも、これらの教訓を肝に銘じてもらいたい。米国が経済の筋力を高めるのに、財政政策や金融政策のステロイドはこれ以上必要ない。この筋力は、クスリに頼らず、自力で鍛えていかなくてはならない。

バイデノミクスがすでに、いくつかの重要な部門をジム通いさせているのは朗報だ。バイデン政権は中国への対抗を念頭に、国内の半導体産業の強化に500億ドル(約7兆1000億円)を投じる「CHIPS・科学法」を成立させた。中国政府が航空宇宙や人工知能(AI)、バイオテクノロジー、電気自動車(EV)、グリーンインフラ、再生可能エネルギー、半導体といった活気のある部門に莫大な投資をするなか、この法律は、それに遅れをとらないようにする米国の取り組みの中核になるものだ。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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