経済・社会

2023.07.12 17:00

多数派と正義は同義ではない

権威主義的民主主義は気候変動問題にも顕著だ。人為的なCO2の排出量増が気温を上げ、地球の寿命を縮めている、だからCO2排出はできる限り早くゼロにしなければならない……これが国際社会のコンセンサスであり、日本はその動きに遅れがちなので大至急対応しなければならない、という。

毎日のようにメディアに登場する気候変動関連の国際活動体は、主なものだけでもCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)等々があり、これらを受けた各国内の関係機関や会議は数え切れない。人間によるCO2排出⇒地球温暖化⇒地球と人類の滅亡、という認識が強迫観念にすらなっているようだ。

しかし、気候変動対策はEUの政治経済的戦略の色彩が濃いと指摘する向きもある。国際炭素税がその典型だという。他方で米国では、気候変動対策に積極的な民主党系と消極的な共和党系で国論が二分されている。途上国の多くは、本音では欧州の気候変動対策を苦々しく感じている。

CO2排出は温暖化の原因のひとつではあるが、決定的なものとは言えないとする高名な科学者もいる。「科学によって、私たちの行動が気候にどう影響するかなどわからない」(S・E・クーニン、ニューヨーク大教授ほか)。

少子化や気候変動は無論のこと、企業経営から人生の在り方にまで、考え方や価値観は多様だ。政策はそのなかの多数派に従うことになるが、政策決定過程では反対意見への真摯な配慮と多数説に対する不断の点検が不可欠である。冒頭の新聞記者氏に再会できたら申し上げたい。シェークスピアはこうも言っている。「物事には良いも悪いもない。考え方次第でどうにでもなる」(ハムレット)


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。

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