中小企業がマクロ経済やサプライチェーンの構造変革に与えるインパクトは大きい。にもかかわらず、その存在は大企業や華やかなスタートアップの影に隠れがちだ。
こうした問題意識の下、「第14回 世界経済フォーラム ニューチャンピオン年次総会2023」(通称「サマーダボス」)では「中小企業をデジタル時代へと押し上げる」(Lifting SMEs to the Digital Age)をはじめ、中小企業に目を向けたセッションが複数開催された。
日本には戦後の製造業を支えてきた中小企業が数多く存在する。彼らは独創的で高度な特殊技術を持つが、データドリブンな社会に追いついているとは言い切れない。さらに、日本の中小企業は経営者の高齢化と、それに伴う事業継承の課題にも直面している。中小企業の温室効果ガスの排出量は日本全体の10~20%弱にのぼるため、気候変動対策も待ったなしだ。
中小企業の存在価値や成長の可能性を高めるために今、取り組むべきことは何か。世界経済フォーラム取締役で第四次産業革命センターを統括するジェレミー・ジュルゲンスに、日本の中小企業が直面する課題への処方箋を聞いた。
事業承継を成長のドライバーにする
──日本政府は、中小企業が第四次産業革命に適応することでさらに成長するとの期待感を示しています。一方、デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる日本の中小企業は1割に留まるとの調査結果もあります。第四次産業革命を通じた中小企業のデジタル化では、データ、教育、サイバーセキュリティが支援すべき3本柱だ。
まず、企業がデータを活用するには政府による規制面の見直しが必要だ。多くの規制が20世紀に作られ、もはや時代遅れになっている。日本ではデジタル庁などが4万件以上の規制を時代に即したものへと見直す方針を示している。規制面のアップデートはデジタル化を推進するうえで重要なポイントの1つだ。
他方、中小企業には(デジタル化を推進するために)必要なスキルや知識、能力が不足していることが多い。とはいえ、中小企業が社内で教育プログラムを用意することは難しいだろう。中小企業は利幅が小さく、大企業からの圧力や激しい競争環境にさらされているからだ。そのため、ここでも政府が学びのサポートなどの役割を果たすことが求められる。そしてサイバーセキュリティも、企業の情報や知識、ビジネスを保護するための重要な要素だ。