まず重要なのは、中小企業をサプライヤーとしてではなくパートナーとして認識することだ。
──大企業が上、中小企業が下という上下関係で捉えるべきではないということですね。
そうだ。多くの場合、これはとても難しい。なぜなら、多国籍企業はより大きな権力を持ち、より大きな重みを持ち、時には従業員一人ひとりの行動レベルにまで関与してくるからだ。
だが、こうした振る舞いは大企業の得にはならない。中小企業は単に何かを提供してくれる存在ではなく、大きなエコシステムにおけるパートナーだ。もし国内の中小企業が成長できなければ、大企業は海外に(パートナーを求めて)行かざるを得なくなる。製造コストは下がるかもしれないが、さまざまな取引コストがかかってくる。
ベストプラクティスの共有も重要な要素のひとつだ。多くの場合、多国籍企業はサプライヤーのベストプラクティスやフレームワーク、データシステムの開発などを支援しやすい立場にある。財務報告書やサステナビリティリポートなど情報開示へのプレッシャーが高まるなか、大企業はサプライヤーにインフラを提供しつつ、サプライチェーンに対する理解を深めることができる。
パンデミック下では、多くの企業が自社のサプライチェーンを一歩先までしか理解していないという事実を目の当たりにした。バリューチェーン全体に対する知識と理解を得ることは、多国籍企業にとっても中小企業にとっても有益だ。
また、日本ではあまり一般的ではないが、他国では大企業が中小企業の社員を社内に招き入れ、どのように経営しているかを見てもらう機会を設けたりしている。人材交流を通じて信頼関係を築き、相互理解を深める機会を創出するのもよりよいパートナーシップを構築する方法のひとつだ。
──日本の中小企業が直面する課題のひとつに経営者の高齢化があります。経営者の交代を企業の事業変革やさらなる挑戦への意欲を高める好機にするために、中小企業にできることは何でしょうか。
中小企業のオーナーの平均年齢に関するデータを見ると、従来の定年を過ぎてもなお経営に携わっている人が少なくない。この事実は自身の役割に対する深い情熱とコミットメントを反映している一方で、次の世代が経営を担うことの妨げにもなる。
中小企業の経営者にできることとして、まずは社内の給与形態を企業の成功を共有できるモデルに変更し、従業員のインセンティブを高めることが考えられる。ポテンシャルの高い社員とともに会社の成功を分かち合うことは、(次世代を育てるための)1つの方法になり得る。
2つめの可能性としてM&A(企業の合併・買収)が考えられる。規模拡大にかかる限界費用がゼロの場合、この方法はうまくいく。事業規模が大きければ大きいほど、デジタル機能やツールの導入による恩恵も大きくなる。
先ほどお伝えした、大企業との人材交流も可能性のひとつだ。大企業から送り込まれた人が、小さな企業で事業責任者やCEOとして働くことに魅力を感じることもある。そこにはメリットもトレードオフもあるだろうが、この分野は探究する価値がある。
──政府や行政機関にできることはありますか。
政府には税制を通じてこれらの動きを促進したり、奨励したりする役割がある。(中小企業の)財政的な重圧を和らげる方法を検討することで、企業は実験的な試みを手がけられるようになる。