2022年6月に学術雑誌『PLOS ONE』に掲載された子どもと犬の強力な結びつきに焦点を当てたイギリスの研究によると、週2回の犬とのセラピーセッションが、子どもたちのコルチゾール(体内のストレスホルモン)レベルを著しく低下させることが分かったそうです。
また、学術誌『Pediatric Research』に発表された研究では、犬を飼っている家庭の子どもは、犬を飼っていない家庭の子どもに比べて、社会的情緒の発達が良好であることが示唆されているといいます。
これらの研究から、犬を飼うことは子どものウェルビーイングにポジティブに関与する可能性は大きいといえます。
このようにペットは私たち人間に多くのウェルビーイングをもたらしてくれる存在となっています。しかし、ペットにとって私たち人間と暮らしていることはウェルビーイングなのでしょうか?
ペットにとって肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあるウェルビーイングをどう実現するのか? を考える上で、私たちが忘れてはならないのは、人間とは違う別の生き物であるということです。どんなに子どものように思っていても、違う動物同士が一緒に生活をしているということを理解する必要があります。
最近ではテクノロジーを活用して心の動きを「見える化」することでペットの気持ちの変化を知ることに役立つデバイスなども登場していますが、言葉を話さないペットとコミュニケーションをとるのは簡単ではありません。
人間の子どものように理解してくれるんじゃないかという期待してしまい、いたずらすることや、吠えること、家のものを噛むことを問題行動としてやめさせようとします。
例えば、犬はもともと仲間と群れで生活し、狩猟する生き物。そのため、ひとりで留守番するのは大きなストレスになります。その状況下では噛むことがストレス解消の大切な手段ですが、適当な対象がないときは、代わりに部屋にあるものを噛んでしまいます。
ペットの「行動の理由」を知ることから
実は私たちはあまり犬の行動をよくわかっていません。動物の健康を守る獣医学とは別に、それを研究する学問として動物行動学があります。生物の本能・習性およびその他一般に生物が表す行動と外的環境との関係性を動物の行動から読み解こうとするもので、英語ではエソロジー(Ethology)と呼ばれています。研究者によって異なりますが、一般的にエソロジーには動物行動学や比較行動学などの訳が当てられており、動物心理学もほぼ同義として扱われています。
「どうしてこんなことをするの?」という動物の行動を、心理学・生物学・生理学などの観点から総合的に理解しようとすることで、飼い主の対応方法も見えてくることから、動物を幸せにするサイエンスといえるでしょう。