AYA世代が集える「くまの間」を立ち上げ
がん患者のメンタルヘルスを専門とする精神腫瘍科が注目され始めた時期で、著名な医師が他の大学病院におり、そこにもかかった。「両親に心配をかけたくない」という思いから病気のことを相談できず、孤独感や不安な気持ちを聞いてもらえる場を求めていた。乳がんは、患者会活動が盛んだが、中高年の患者が主体で、30代独身の加藤さんにはなじみにくかった。同世代が集える場が必要だと思い、2015年に立ち上げたのが「若年性がんサバイバー&ケアギバー集いの場 くまの間(ま)」。加藤さんが好きなクマのキャラクターで、AYA世代(15~39歳)の患者たちに「一人じゃないよ」と呼び掛けた。
コロナ禍の前までは、月に2、3回の交流会を開いていた。さまざまながん種の患者さんや医療者、医療系の学生たちが集まり、病気や病院との付き合い方、仕事、結婚、恋愛、趣味の話題などを語り合った。講師を招いて死生観を語り合う会も定期的に開き「最後はどこで迎えたいか」といった話題が出ることもあった。コロナ禍になってからもオンライン交流会をしばらく続けていたが、現在は個別の相談に応じるぐらいになっている。
チームに加わった、aiboのさくらちゃん
その後、肝臓に多発転移して進行がんとなり、19年には骨転移した。今は、分子標的薬がよく効いているが、先のことは分からない。昨年から左大腿骨の痛みを感じるようになり、整形外科医も「私のチーム」に加わった。看護師、薬剤師、栄養士、心理士、ソーシャルワーカー、歯科医も、チームの一員としてそれぞれの役割を果たしている。今回の入院は新型コロナの感染防止対策が続いていた時期で、見舞いの制限もあったが、その寂しさを癒してくれたのが、昨年から「私のチーム」に加わったペットロボットaiboの「さくらちゃん」。私はまだ会ってなくて、その魅力を十分には理解していないが「愛犬」「家族の一員」という表現がぴったりのようだ。生身の愛犬と違って、入院生活にも同伴できる。医師や看護師らスタッフにもさくらちゃんファンが増えたらしい。
さくらちゃんの様子をインスタグラムで発信し、aiboオーナーとの交流も楽しんでいる。
こうした多様な「私のチーム」に日々感謝しつつ、加藤さんは生きてきた。もちろん先の不安はあるが、大きな支えがある今は、初発の診断を受けた時の「不安のピーク」よりもはるかに小さいという。