政治

2023.06.13

押し通された「改正入管法」の舞台裏 国会参考人が問う

shutterstock

2年以上揉めたいわゆる入管法改正案が、6月9日、参議院本会議で実質的に無修正で可決・成立してしまった。私も含め難民保護推進派にとっては完敗である。

確かに、私が難民政策に取り組み始めた1990年代後半と比べたら一般市民の関心は各段に高まり、「入管法改悪反対運動」による世論の目覚ましい喚起には、心から敬服している。とはいえ、国際難民法や国際人権法の観点から深刻な懸念がある法案が無修正で可決され、日本にいる難民や庇護申請者の身に危険が及ぶおそれが大幅に高まったことは、痛恨の極みである。

この最悪の事態を確実に阻止するため私は、衆議院法務委員会において野党推薦の参考人としてただ一人「修正協議」を訴えた。

立憲民主党の一部議員の尽力もあり、政府与党側はかなり踏み込んだ修正案に合意したが、その内容では到底不十分とした弁護士や活動家、外国人支援団体からの強烈な圧力に押され、立憲の党幹部が修正案を拒否したため、衆議院でも参議院でも政府与党案が実質無修正で可決され、難民や非正規滞在者にとって最悪の結果が実現してしまった。

本稿では、法案への具体的な文言修正を提案した唯一の国会参考人として、また実際に多くの難民や避難民、庇護申請者、非正規滞在者など弱い立場に置かれた外国籍者の支援と保護に長年世界各地で携わり、難民学・国際人権法・政治学を専門分野とし、日本の難民政策決定過程研究を続ける者として、今般の顛末と、幻と消えた修正案の要点、難民保護派が今後すべきことについて、綴ってみたい。

なお筆者は難民審査参与員でもあり、非常勤国家公務員として国家公務員法第100条に則った守秘義務があるが、本稿には参与員として知り得た情報は一切入っておらず、完全に個人の見解である。

また、維新の党や国民民主党の提案に基づく修正は法案に取り入れられたが、それらは当事者には直接的な影響を与えない微修正あるいは法的拘束力のない附帯決議であるため、本稿では政府与党案と同一視する。

入管法改正案廃案、その後の顛末

今国会で審議された入管法改正案は、2021年2月に提出された「旧法案」とほぼ同じ内容で今年3月に法務省によって再提出された。

2年前は法案提出の1カ月ほど後に、名古屋入管に収容中のスリランカ人女性が亡くなったという痛ましい事件もあり、また夏にはオリンピック・パラリンピックも開催予定で、さらに秋には衆院総選挙も控えていたことから、野党や国内外からの反対や批判を押し切って通すのは得策ではない、という合理的判断が政府与党側に働いたため、廃案となった。

その後筆者は、1年ほど前から永田町や霞ヶ関の要人と内々に意見交換する機会があり、少なくとも自民党及び入管庁内のハト派からは、できる限りの修正を施した上でなんとかこの法案を与野党合意の下で成立させたいという強い意欲を感じていた。

ただしそれは「今回は絶対に廃案にはしない、させない」というメッセージでもあった。同時に、現場では本年12月以降の施行をにらんだ準備が着々と進められていた。一方、院外では弁護士や活動家、支援団体による廃案一択運動が高まりを見せ、「廃案を叫ばずは人に非ず」かのような非リベラルな思想・言論統制が広がっていった。
次ページ > 大幅な修正案と、強烈な圧力

文=橋本直子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事