すでに2020年4月のアムステルダム・シティ・ドーナツの公表から3年が経過したアムステルダムでは、どのような変化が生まれているのだろうか。エバート氏はこう話す。
エバート氏「人々の意識という点では明らかな変化があり、それは最も重要なことです。アムステルダムでは、現在はリベラルな緑の党が最大党派であり、特に若い世代が支持しています。彼らは新しい服を着ることを望まず、古着を好み、車をシェアしています」
「政治ができることは、誰も車を所有したくならないように駐車場代を上げたり、裕福ではない人でも気候変動に適応できるようにグリーンエネルギーやグリーンルーフに補助を出したりすることです」
「私は、アムステルダムの政策は市民の意識と規制の双方をめぐる議論において何が実現可能なのかという点について、よく注視できていると思います。もしレンタルやカーシェアリングのサービスが存在しなければ、駐車を禁止することはできません。だからこそ、政策が早く進みすぎないようにし、一方で人々を変革を後押しできるだけの十分な早さを保つためには、コミュニケーションがとても重要となるのです」
循環経済への移行を急ごうと政策だけが先走っても、市民はついてこない。市民や企業の変化のスピードと政策のスピードを揃えながらバランスある舵取りをするために、官民が対話を重ねることが、結果としてより早い移行の実現につながるのだ。
ハルセマ氏「また、アムステルダムでは広範に社会的・経済的変化が起こっていると感じます。例えば、大手企業を見てみれば、彼らは全員が自身の変革が必要不可欠であることに気づいています。アムステルダムでは、最も重要かつ大規模な企業は空港、港湾、そして製鉄会社でした。
彼らは地域を汚染し、住みづらくし、長年にわたりあらゆる環境やサステナビリティ規制に対して反対してきました。しかし、アムステルダムの暮らしやすさが危機に晒されるなかで、自分たちが変わらない限り未来はないと認識し、現在では彼らが水素などの公開討論の場において最前線にいるのです」
アムステルダム・スキポール空港 via Shutterstock
また、エバート氏はオランダでは雇用の視点からも企業が循環経済への移行する重要性が増していると説明する。
エバート氏「若い世代は仕事にパーパスを求めており、お金のためだけには働きません。オランダの雇用市場は非常に厳しく、企業は変化をしない限り、もう従業員を採用することすらできないでしょう。特にアムステルダム地域で人々を採用したいなら、どのように循環型の企業になれるかについての優れたアイデアを持っている必要があります」
アムステルダムは、どのように循環型都市の生態系をファシリテートしているのか?
IDEAS FOR GOOD 編集部も2019年にアムステルダムを訪れ、多くの団体の取材を行ったが、実際にまちを訪れてみると、行政や企業、大学、スタートアップ企業など立場を問わず人々がつながっており、市内には循環経済をめぐる一つのエコシステムが存在すると感じさせられる。アムステルダム市は、どのようにこのエコシステムを築き上げてきたのだろうか。