また、アムステルダムにはスタートアップ支援プログラムもありますし、Circle Economyをはじめとしてたくさんの民間のイニシアチブやスタートアップ企業のためのインキュベーション施設があります。彼らが同じ場所で交流し、アイデアを生み出していくのです」
「また、私たちは過去2世紀にわたり、『妥協』する文化の中で暮らしてきました。それは、政治、文化、宗教において絶対的なマジョリティがいないというオランダだからこそ育まれた知恵でもあります。宗教的にも、文化的にも、常に妥協せざるを得なかったのです」
「これはしばしば研究の対象にもなってきました。例えばフランスや英国のように激しい政治的衝突があり、よくストライキが起こる国々と比較して、オランダは妥協のおかげでより早く変化を起こすことができるのです」
多様なステークホルダーが同じ場所に集まって議論を重ね、全員が納得する妥協点を見つけ、解決策を作り上げていく。オランダの歴史が築き上げたこの文化が、生態系の栄養源となっているのだろう。
エバート氏「例を一つ挙げましょう。アムステルダムでは、廃棄物管理会社が新しい廃棄物発電施設の建設を望んでおり、市民は反対しました。しかし、アムステルダム市の政治家は、私たちは廃棄物を輸出するつもりはない。これは私たちの廃棄物だと主張し、この案に賛成しました。これは8年間にわたる討論だったのですが、その結果として最もクリーンな廃棄物発電施設が生まれました。これこそが、私たちの解決策の見つけ方なのです」
成長の定義に、人々の幸福を含めよう
日本においても、ここ数年の脱炭素に向けた流れの中で循環経済への移行を進める自治体や企業は急速に増えている。これから循環経済への取り組みを進める上では、どのような点に留意すれば良いだろうか。最後に二人に聞いてみた。エバート氏「全てのステークホルダーの声を聞くことです。全ての地域に適用できる解決策はありません。それは社会的構造や物流なども含め、それぞれの地域の状況に依存するものだからです」
ハルセマ氏「サステナブルな経済は、成長する経済であるという認識がとても重要だと思います。それは成長を最大化するものではないかもしれません。恐らく日本においても、多くの人々がサステナビリティとは、貧しくなるということであり、人生における機会が減ることだと考えているのではないでしょうか。しかし、それは真実ではありません。多くの国や業界が示しているように、サステナブルな経済は長期的な繁栄をもたらすのです」
「私は、日本はとてもユニークな立場にあると思います。日本は、長きにわたり、繁栄とはお金のことだけではなく、よい教育であり、よい市民であり、伝統であり、コミュニティであるということを理解しているからです。人々を幸せにする方法はたくさんあります。経済成長の定義を、福祉や教育、スポーツ、余暇など、人々を幸せにするあらゆる物事にまで広げることができれば、成長とサステナビリティの間に分断はなくなるのです」
取材後記
二人の話を聞いて感じたのは、アムステルダムの循環経済への移行の道のりは、オランダの文化や社会のあり方と密接に結びついているという点だ。特定のマジョリティが存在しない多様な都市だからこそ、オープンかつリベラルで、変化を受け入れやすい土壌があること。また、多様なステークホルダーがオープンかつパブリックに討論を重ね、全員が納得できる最高の妥協点としての解決策を見つけにいくというスタイルが根付いていること。こうしたオランダの社会的背景が、循環経済への移行を促進するドライバーとなっているのだろう。
また、循環経済という概念そのものも、環境、社会、経済の全てにまたがる非常に包括的な概念であり、ある意味ではあらゆるステークホルダーが議論に参加できる余白を作りやすい概念とも言えるかもしれない。
最後にエバート氏が指摘していたように、アムステルダム市の手法を文化も社会も異なる日本にそのまま適用することは難しいかもしれない。一方で、ハルセマ氏が残してくれた言葉にあるように、日本には日本ならではの文化や伝統に紐づいた「繁栄」に対する考え方があり、自然と調和し、共生してきた歴史がある。
循環都市・アムステルダムの事例と実践に学びつつ、その眼鏡をかけて日本という国やそれぞれの地域が持つ文化・社会的な資源を見つめ直してみることが、循環経済への移行に向けた一歩目になる。そう感じさせられる取材だった。
【参考サイト】
・City of Amsterdam “Policy: Circular economy”
・Amsterdam Circular Strategy 2020-2025(PDF)
・Amsterdam City Doughnut(PDF)
・Femke halsema
・Harvest Waste
・Amsterdam Institute for Advanced Metropolitan Solution(AMS Institute)
・Circle Economy
※この記事は、2021年9月にリリースされたCircular Economy Hubからの転載です。
(上記の記事はハーチの「IDEAS FOR GOOD」に掲載された記事を転載したものです)