欧州

2023.05.26 11:45

なぜアムステルダムは、循環経済の先進都市になれたのか?

田中友梨

暮らしやすさと経済の両立が、イノベーションをもたらした

ハーベスト・ウェイストCEOのエバート・リヒテンベルト氏は、環境、社会的側面に加えて、経済的な視点からもアムステルダムが循環経済の先進都市となった理由について説明する。

エバート氏「(アムステルダムが循環経済への移行を進めるのには)経済的な理由もあります。市長の話にもあるように、私たちはコストを生み出しているのではなく、新たな経済セクターを生み出しており、イノベーションに必要なコストを下げるための新たな方法に投資しているのです」

「また、アムステルダムでは1877年以降今日にいたるまで、同市の廃棄物管理のオーナーシップは自治体が持っており、これは廃棄物管理が民営化されている多くの国々とは異なる点です。民間企業は全く異なるインセンティブで動きます。経済だけを考えるのであれば、ゴミを集めて海に捨てるのが最も安価な方法です」

エバート・リヒテンベルト氏(ハーベスト・ウェイストCEO)photo by Masato Sezawa

「しかし、リバブル・シティ(住みやすい都市)という政治的アイデアを実現するためには、都市を清潔に保ちながら、同時に自由も維持しなければいけません。市民からはどのような都市を実現したいかについての多くの声があり、廃棄物管理会社は、企業として財務的に持続可能である必要がある一方で、それらの政治的なビジョンに適応する必要がありました」

「この状態が、イノベーションを促進したのだと思います。また、自治体、企業、市民、全てのステークホルダー同士がたくさんの議論を重ねるのがオランダ流のやり方であり、そこから全ての人々に適した解決策、イノベーションを生み出すのです。現在ではケイト・ラワース氏のフレームワークに適合させるためにはさらなるイノベーションが必要となります。

今後もイノベーションは起き続けると思いますし、そのナレッジを輸出できれば良いとも思いますが、それは目的ではありません。私たちは、経済とリバビリティ(暮らしやすさ)のバランスを取る必要があるのです」

アムステルダムでは自治体が廃棄物管理企業のオーナーとなっている関係で、企業としての持続可能な事業運営と、住みやすいまちの実現という2つを両立させる必要があった。その難しさと、実現に向けたステークホルダーとの議論が、結果としてイノベーションにつながったというのがエバート氏の考えだ。

ドーナツ経済の採用から3年。アムステルダムの今

地球のプラネタリーバウンダリーの範囲内で社会的公正を実現するというドーナツ経済学の考えは、主に環境負荷(Planet)と経済成長(Profit)のデカップリングという2つの「P」に焦点を当てていた循環経済の概念に社会的側面(People)を補完するアイデアとして広く受け入れられ(※アムステルダム市がドーナツ経済学を採用した背景については「【欧州CE特集#15】ドーナツ経済学でつくるサーキュラーシティ。アムステルダム「Circle Economy」前編」を参照。)、現在ではアムステルダム市以外にもオーストラリア・メルボルンやベルギー・ブリュッセルなど様々な都市が同概念の政策への活用検討を進めている。この循環経済が持つ社会的側面について、ハルセマ氏はどのように捉えているのだろうか。
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文=IDEAS FOR GOOD Editorial Team

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