エム・アンド・ピー取締役に昨年、長女の山本ソニアが就いた。PRディレクターとしてSNSマーケティングなどで商品プロモーションに力を入れる。「会社を継ぐという感覚よりも、自分の得意分野をプラスアルファして、父と一緒に大きくしていく感じです」。父の事業にジョインした思いをそう話す。
学生時代からファッション誌のモデルとして活躍。その経験を生かし、個人の活動としてアパレルやコスメブランドとコラボし、商品のディレクションもしている。エム・アンド・ピーの仕事もそれと同じ感覚だという。
モロッコ産ワインを、ちょっとモダンな中華料理店に紹介する。クスクスを、ミシュランの星を獲得したフランス料理店にもち込んでみる。「このお店で使われると面白い化学反応が起きるかな」という発想でアプローチし、販路を広げている。昨年12月にはモロッコ政府機関から招待を受け、ワインの生産地や食品メーカーを巡ってきた。
一方のハブネット。2020年10月、社長を長男の山本啓寿(ケイス)が継いだ。「なぜ社長に」と問いかけると、「守るため」という言葉を返した。「家族や従業員が乗るこの船が、この先、荒波を乗り越え、よい波をつかむために。そういう感覚です」
中学からフランスに留学し、夏休みになると日本に戻って物流倉庫の仕事を手伝った。10代で会社を継ぐことを決め、帰国後は日本の音楽関連会社で映像制作の仕事に就く。物流とは異なる社会経験を積むことが将来のシナジーにつながれば、そう考えたからだ。
その経験は、コロナ禍で実を結ぶ。美術品輸送の依頼が激減したとき、アーティストの自伝映画の製作を思いついた。書籍による作品集の映像版だ。「クオリティが高ければ、アーティストから発注が来るはず」という見込みは的中し、40人から製作依頼が来た。ビジネスをクリエイトする思考。「そこは確かに父と似ているかもしれません」。
エム・アンド・ピーは、医薬品輸送容器の開発で有名な米ペリバイオサーマルと日本で唯一の正規代理店契約を結んだ。国内外の製薬会社が輸送時に指定する同社製容器を、ハブネットで使うだけでなく、国内のほかの物流会社にも卸している。得意分野でビジネスの要衝を取る──。父に教わったこの言葉を極めたい、啓寿はそう語る。
ハブネットの売り上げは20年度の13億円から22年度は27億円に。コロナ禍で倍増させた。創業当初から今も、営業担当はいない。新規客は口コミ、すべて人の縁だとメッセルマニは言う。
「営業をいっぱいやってたら、もっと大きくなったかもね。でも、私はお金にハングリーじゃない。スロー・アンド・ステディ(ゆっくりと安定的に)。それがジャパニーズスタイルでしょ」。そう言って笑ってみせるのだ。