事業継承

2023.05.29 16:30

「必要なことは日本の商社で学んだ」 画家が作った世界に通用する家族企業

メッセルマニは今年73歳。事業は今、子どもたちに引き継がれつつある。そして、彼らの経験とセンスが、父が追求した「誰もやらない」ジャンルをさらに開拓している。

エム・アンド・ピー取締役に昨年、長女の山本ソニアが就いた。PRディレクターとしてSNSマーケティングなどで商品プロモーションに力を入れる。「会社を継ぐという感覚よりも、自分の得意分野をプラスアルファして、父と一緒に大きくしていく感じです」。父の事業にジョインした思いをそう話す。

長女で、エム・アンド・ピーの取締役兼PRディレクターの山本ソニア。モデルとして広告や雑誌で活躍する傍ら、アパレルやコスメの商品ディレクションもしてきた。そのノウハウを自社の食品事業でも生かし、日本で地中海や北アフリカの食文化の認知度を高めようとしている。

長女で、エム・アンド・ピーの取締役兼PRディレクターの山本ソニア。モデルとして広告や雑誌で活躍する傍ら、アパレルやコスメの商品ディレクションもしてきた。そのノウハウを自社の食品事業でも生かし、日本で地中海や北アフリカの食文化の認知度を高めようとしている。


学生時代からファッション誌のモデルとして活躍。その経験を生かし、個人の活動としてアパレルやコスメブランドとコラボし、商品のディレクションもしている。エム・アンド・ピーの仕事もそれと同じ感覚だという。

モロッコ産ワインを、ちょっとモダンな中華料理店に紹介する。クスクスを、ミシュランの星を獲得したフランス料理店にもち込んでみる。「このお店で使われると面白い化学反応が起きるかな」という発想でアプローチし、販路を広げている。昨年12月にはモロッコ政府機関から招待を受け、ワインの生産地や食品メーカーを巡ってきた。

一方のハブネット。2020年10月、社長を長男の山本啓寿(ケイス)が継いだ。「なぜ社長に」と問いかけると、「守るため」という言葉を返した。「家族や従業員が乗るこの船が、この先、荒波を乗り越え、よい波をつかむために。そういう感覚です」

メッセルマニ会長の長男でハブネットの山本啓寿社長。音楽関連会社での勤務を経て、2020年10月から現職に。前職で培ったテクノロジーの知見を自社の事業にいっそう生かしていきたいと語る。

メッセルマニ会長の長男でハブネットの山本啓寿社長。音楽関連会社での勤務を経て、2020年10月から現職に。前職で培ったテクノロジーの知見を自社の事業にいっそう生かしていきたいと語る。


中学からフランスに留学し、夏休みになると日本に戻って物流倉庫の仕事を手伝った。10代で会社を継ぐことを決め、帰国後は日本の音楽関連会社で映像制作の仕事に就く。物流とは異なる社会経験を積むことが将来のシナジーにつながれば、そう考えたからだ。

その経験は、コロナ禍で実を結ぶ。美術品輸送の依頼が激減したとき、アーティストの自伝映画の製作を思いついた。書籍による作品集の映像版だ。「クオリティが高ければ、アーティストから発注が来るはず」という見込みは的中し、40人から製作依頼が来た。ビジネスをクリエイトする思考。「そこは確かに父と似ているかもしれません」。

エム・アンド・ピーは、医薬品輸送容器の開発で有名な米ペリバイオサーマルと日本で唯一の正規代理店契約を結んだ。国内外の製薬会社が輸送時に指定する同社製容器を、ハブネットで使うだけでなく、国内のほかの物流会社にも卸している。得意分野でビジネスの要衝を取る──。父に教わったこの言葉を極めたい、啓寿はそう語る。

ハブネットの売り上げは20年度の13億円から22年度は27億円に。コロナ禍で倍増させた。創業当初から今も、営業担当はいない。新規客は口コミ、すべて人の縁だとメッセルマニは言う。

「営業をいっぱいやってたら、もっと大きくなったかもね。でも、私はお金にハングリーじゃない。スロー・アンド・ステディ(ゆっくりと安定的に)。それがジャパニーズスタイルでしょ」。そう言って笑ってみせるのだ。

文=斉藤泰生 写真=アーウィン・ウォン

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年7月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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