「よりよき祖先」思考の提唱者に聞く、長期思考を養うための方法論

文化思想家 ローマン・クルツナリック

──「長期思考を養うための6つの目標」と方法論を提唱していますね。説明してください。

まず、「ディープタイムの慎み」だ。宇宙の歴史に比べると人間など一瞬の存在だという、悠久の時間の感覚である。産業革命以来、誰が生物界を破壊してきたのかを自問自答すべきだ。一方、「短期主義に引きずり込む6つの力」のうちの1つ、「時計の専制」はこの逆だ。アルゴリズムによる自動的な株の売買などが、これに当たる。

2つ目が「レガシー・マインドセット」だ。どのようなレガシー(遺産)や贈り物を未来の世代に残すかという意識である。これと対峙するのが「デジタル・ディストラクション」だ。SNSなどで気が散り、世代間のつながりを考えられなくなることだ。

3つ目が「世代間の公正」だ。未来の世代への責任を自覚し、政治に彼らの声を反映させることだ。次の選挙やツイート、世論調査のことしか頭にない近視眼的な「場当たり的政治」は、この逆だ。

4つ目は、前述の「大聖堂思考」だ。長期計画プロジェクトである。この足を引っ張るのが、市場の規制緩和で台頭してきた「投機的資本主義」だ。

5つ目が「全体論的な予測」だ。「予測」という概念が企業に乗っ取られ、狭義のものになってしまったいま、文明全体を射程に入れた未来予測が必要だ。この阻害要因が「ネットワーク化された不確実性」だ。テックの進歩で、不確実性が高まっている。

6つ目が「超目標」だ。経済を地球に属するものとしてとらえ、人類の長期目標に向かって努力することだ。これを阻むのが、短期主義的な「永遠の進歩」の追求だ。各国政府は、「果てなき経済成長」思考と決別すべきだ。消費者が修理できないスマホの販売を禁ずるなど、大胆な循環経済が理想だ。

──第5章「世代間の公正」に出てくる「7世代思考」とは何ですか。世代間の公正を求めて拡大する世界的な運動についても説明してください。

「7世代思考」は、ネイティブアメリカンの文化で顕著だ。7世代先に及ぼす影響を考えながら意思決定を下さなければならない、という概念だ。地球は「借り物」であり、次世代に引き継ぐものだという環境保護主義的な責任に基づく思考だ。西條辰義・高知工科大学特任教授が提唱した、日本の「フューチャーデザイン」という概念は7世代思考を反映したものであり、実に興味深い。

未来の世代や長期思考への関心は高まっている。世界中で、若者が政府に対して訴訟を起こし、「私たちには、化石燃料フリーの未来を求める権利がある!」といった主張を展開している。短期主義に対抗し、時間軸の再考を主張する「時の反乱者」の運動が増えているのだ。いまから1世紀後、「あの時が、『よき祖先になるための再生経済』時代の幕開けだった」と評されることになるかもしれない。

私がこうした動きに「希望」を見いだすのは、歴史の変化は社会運動にかかっているからだ。政治家やビジネスリーダーは圧力なしに行動しない。
次ページ > 6つの質問による「グッド・アンセスターの対話」

インタビュー = 肥田美佐子 イラストレーション = オリーナ・フェンウィック/ケイト・ラワース

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事