今年2月、“アニメーション界のアカデミー賞”と呼ばれるアニー賞で、Netflixシリーズ『ONI ‾ 神々山のおなり』が作品賞を受賞した。監督を務めたのは、アニメーションスタジオ「トンコハウス」代表の堤大介だ。Netflixで配信中の本作品だが、堤がNetflixに企画をもちかけたときは、サブの企画だったという。
太古の昔、人々は日本に渡来した西洋人や先住民族のアイヌの人を見て「鬼」と呼んだという説がある。そこから着想を得て、日本を舞台に神々が暮らす村で雷神に育てられた「人間」の話を描く。それが、堤が以前から温めてきたコンセプトだった。
ただ、日本やアジアの作品をハリウッドで製作すると、日本人役を白人の俳優が演じる場合も多かった。堤は日本を舞台にした作品は時期尚早と考え、一般にウケそうな企画をメインで提案。しかし、Netflix担当者が関心を示したのは、「一応こんなのも」と見せた『ONI』のほうだった。
「担当者が『ONI』を選んだ理由はふたつあります。ひとつは、ダイバーシティがうたわれ始めた時期で、ちょうど時代の転換点だったこと。担当者は、アメリカを拠点にするトンコハウスが日本のお話をつくることに魅かれたようです。もうひとつは、つくり手である僕の情熱。『Dice(堤の愛称)がそんな思いを持っている企画なら面白くなる』と言ってくれました」
情熱が伝わったのは、堤が作品づくりで「なぜ」を重視しているからだろう。愛読書のひとつはサイモン・シネック『WHYから始めよ!』。WHATやHOWではなく、なぜこの物語をつくるのかを説明したところ、担当者の心をとらえた。
「僕は18歳で渡米しました。マイノリティになるのは初めての経験で、自分が『よそ者』である事実を否が応でも突きつけられました。最初はそういうものだと思って、目立たないようにやっていたんです。でも、次第にそれは違うんじゃないかと。見た目が違うだけで心に壁をつくる心理はどこから生まれるのか。その気持ちに向き合うことが、この作品をつくる『なぜ』でした」
なぜ人は、よそ者を差別するのか。堤は「すべては“恐れ”から始まる。自分と違うものが怖いから、攻撃したり無視したりして自分を守ろうとする」と分析。そして「そんな恐れの気持ちは自分の中にもある」と告白する。
小学生のころ、アフリカ系アメリカ人の親友がいた。けんかをして肌の色を揶揄したこともあったが、本人は明るい性格で、苦しんでいる姿は見せなかった。当時は自覚していなかったが、自分がマイノリティになってはじめて、自分の中にも差別の心があったことに気づいた。『ONI』は、自分の心の中にある闇と対峙するための作品でもあったのだ。