地球規模の課題や地域課題に対して、「自分たちのあり方」で挑む、彼ら、彼女らを「NEXT100」と定義。その新しい起業家精神とスタイル、アプローチで社会的・経済的インパクトを起こす人々の希望と可能性を紹介する。本記事は、同特集内で掲載している記事だ。
養殖魚は小魚を原料にして育つ。魚を育てるために魚を使う。この矛盾を解消できないか。そんな問いを掲げて動き出したスタートアップがある。キーワードは「藻」と「泡盛」だ。
沖縄の藻と泡盛が世界を「おいしく」救うかもしれない。沖縄に拠点を構えるスタートアップAlgaleXが手がける、泡盛の副産物である泡盛かすで育てた藻「Umamo(うまも)」のことだ。DHA(ドコサヘキサエン酸)やオメガ3などの栄養素が豊富なだけでなく、さまざまなうま味成分を含んでいる。口に含むと、確かにカラスミのような濃厚さがある。
「魚に含まれるDHAは、食物連鎖をたどれば藻に起因する。Umamoができる前から、藻がDHAを含むことは予想できていました」
そう話すのは、AlgaleX創業者の高田大地だ。しかし、そんな高田も「トマトの10倍のGABAや、グルタミン酸、コハク酸などのうま味成分が多く含まれていたのは予想外だった」という。
実は、魚の養殖に欠かせないDHAは魚から補給されている。養殖魚を育てるために、大量の天然魚を消費する。このサステナブルとは言いがたい仕組みを、泡盛かすという未利用だった資源を活用して育てた藻で変革しようというのが、AlgaleXが掲げる「海のサステナビリティに対する挑戦」だ。
しかし、大手商社で新規事業に取り組んでいた高田がなぜ、藻で起業するに至ったのか。神奈川県茅ヶ崎市で生まれ育ったことが、海の問題に関心をもつきっかけになったのだろうか。そう水を向けると、「環境問題に特段の関心があったわけではないですが、自立したいという思いは子どものころからひと一倍強かった」との答えが返ってきた。
「19歳でアメリカを旅したり、カナダのホテルで働いたりしたのも、自立への憧れがあったからです。渡航費用から現地での生活費まで、すべて自分の稼ぎのなかでやりくりしました。選択肢がある場面ではいつも、自分の足で立って生きていけるほうを選択してきた気がします」
そんな高田が食料問題にかかわるきっかけになったのは、大手商社の新規事業部で魚の養殖に携わったことだ。天然魚に変わるDHA源を見つけることが水産養殖業の維持につながると知った高田は、出資先だったインドネシアのベンチャー起業に転職する。そのベンチャーではパームオイル生産の副産物を活用して藻を育て、DHA源とすることを目指していた。
だが、転職した翌年に社長が他界。思いがけない出来事に「世界を変える技術をここで途絶えさせたくない」と覚悟を決め、同じベンチャーで働いていた日本人の研究者とともに、21年3月にAlgaleXを立ち上げた。
「目の前にソリューションの種がある。それを世に送り出すまでは何としてもやり遂げたい。そう思っての起業でした」