南国でしか見られない澄んだ青空を見上げながら、ふと、この小島には現代日本の重要政策課題が凝集されていると思い至った。
地方活性化、食料需給、そして防衛だ。
地方のなかでもとりわけ将来が心配されるのが離島である。喜界島は、往古、俊寛が遠流になった島とも伝えられる。人口は7000人を切る。サンゴ礁の地盤なので、飲料水は地下の貯留池に頼る。コンビニもゲームセンターもないが、小さなスーパーマーケットが人々を温かく迎えていた。
美しい海の恵みは豊かでも、大規模漁業の拠点にはなりにくい。大きな港がないので大量輸送に向かない。黒糖酒やスパイスといった特産品も生産量に限りがある。ガジュマルの巨木など観光スポットは魅力的だが宿泊施設が少ない。鹿児島との直行便は、小型プロペラ機が一日2便だけだ。
東京から移住して黒糖生産に従事する男性曰く「人々は優しいし、食べ物もうまい。ネットもテレビもあるから情報不足はない。毎日、自分の畑でつくったサトウキビをこうした昔ながらの製法で黒糖にしているんです」。
島の家々はなかなかに立派なつくりである。近代的なデザインで敷地が広い。サトウキビ産業しかない割に、豊かな印象だ。「近くの郵便局、あそこは1人当たり貯金高が日本一になって表彰旅行で海外に行ったそうですよ」。男性がほほえむ。
この豊かさはどこからくるのか。どうも公的な補助政策が鍵のようだ。サトウキビ産業自体が、糖価調整法による手厚い保護の下にある。国際水準よりもはるかに高額な国産糖は、政府の保護策によって国と製糖企業からの実質補助金で守られている。離島に対する国や県の振興策も多種多様である。
島の少なからぬ人々は、無理して新分野に挑戦したり、リスクを覚悟で起業するよりも、現在の生活のほうが望ましいと考えているのではないか。
これは恐らく、日本中の地方に通奏低音のように流れている本音ではないか。手を変え品を変えて繰り出される地域振興策には、立案者とその受け手との間に大きな溝があるような気がしてならない。