日本の食糧自給率は、カロリーベースでは38%(令和元年度)に過ぎない。100%を超える農業大国の米加豪仏を別格としても、ドイツやイタリアはおろかスイスの50%をも大きく下回っている。特に島国で日本と面積も近い英国は70%である。半世紀前は日本とほぼ同じ水準であったのに大きく水をあけられた。
日本農業の振興はコロナ前から叫ばれていたが、主眼は輸出用の高額高級品に向けられていた。コロナによる準鎖国状況やウクライナ戦争による主要穀物の世界需給逼迫(ひっぱく)を目の前にすると、自由貿易を前提とした食糧戦略も見直しの時期に来ていると痛感する。
英国の自給率向上は、単位収量の向上など農業科学の進展と活用に負うところが大きいという。日本も、科学と農業の融合的発展による食料自給率の向上を真剣に考えるべき時代になっている。
最後に防衛だ。喜界島には地元の人々が「象の檻」と呼ぶ自衛隊の巨大通信基地がある。太平洋戦争中につくられた海軍の飛行場があり、米軍の攻撃を受けた悲惨な経験が生々しく、地元の反対運動も激しかったという。だが、昨今では駐屯員と地元の女性が結婚するケースも少なくなく、彼らの出会いの場となる飲食店もある。
小高い丘に登ると、サトウキビ畑の向こうに通信基地が望見され、その先に真っ青な海と紺碧の空が広がる。島の知人が言う。「ここの海はホエール・ウォッチングで有名です。でもね。クジラの下にはもっと物騒な人工クジラが潜んでいるかもしれない」。どこぞの国の潜水艦の意味だ。「島の真上は、東南アジア航路で旅客機銀座になっています。でもね、旅客機のはるか上には、巨大気球が漂っているかもしれない」。
平和な風景の裏には、仮借ない日本の安全保障問題が広がっていた。
川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。