ビジネス

2023.04.26

沖縄の藻 x 泡盛の偶然 「インポッシブルフィッシュ」が魚を救う

AlgaleX代表取締役社長 高田大地

沖縄県うるま市で起業したのは、国内で唯一、商業規模で藻を培養できる特殊な設備があったからだった。しかし、この偶然が高田たちと泡盛かすの偶然の出合いをもたらす。沖縄で通年生産している製品のなかで、アミノ酸が豊富な副産物が出るものを探しているうちにたどり着いたのが泡盛かすだったのだ。

22年1月には、泡盛かすからDHA藻類を安定的に発酵させることに成功。泡盛かすを、DHAとうま味を多く含む食用藻「Umamo」へとアップサイクルする技術が完成した。同社は23年1月に、この製造技術で特許を取得している。「泡盛で育てたUmamoは多くのうま味成分が含まれていておいしい。このおいしさは、運がよかったとしか言いようがない」

「魚を減らさない海」への挑戦

現在、AlgaleXはUmamoを使った商品の第1弾として、一般市場向けにうま味や成分を生かしただしじょうゆや調味料、サプリメントなどを展開している。だが、高田が目指すのは海のサステナビリティの向上だ。そのためには、Umamoを魚の養殖の飼料として活用してもらえるように、製造原価を下げる努力が欠かせないと高田は指摘する。

「養殖魚の餌となる魚粉のキロ単価は現時点で過去最高値の350円程度まで高騰しており、今後も下がる見込みはありません。30年までにはUmamoの単価を魚粉の卸売価格を越えるレベルまで下げ、飼料マーケットでUmamoを活用してもらい、魚に魚を食べさせない持続可能な養殖を目指します」

商社で原料調達の経験などを培ってきた、高田らしい算段だ。一方、一般消費者向けの食品商材については、年内にも海外市場に進出することをもくろんでいる。さらに、他企業と協業し、植物性の原料でつくる「代替魚」の風味の鍵としてUmamoを使うプロジェクトも走り出した。「Umamoは完全植物性なので、ビーガンやハラルなどのマーケットでのニーズも見込むことができると考えています」

高田が願うのは、「当たり前に魚を食べ続けられる未来」。沖縄という土地がもっていた特性と自社の技術。さまざまな偶然が組み合わさって開発された藻が、世界中の魚を救う日はそう遠くないかもしれない。


高田大地◎AlgaleX代表取締役社長。1989年生まれ。茅ヶ崎市出身。早稲田大学法学部卒。在学中に休学し、カナダの高級ホテルに勤務。卒業後、大手総合商社にてM&A、事業再生、ベンチャー投資を担当した後、水産養殖の課題解決を目指し、商社在職時に投資したスタートアップにCFOとして転職。2021年3月、沖縄県うるま市にAlgaleX設立。

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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